●天災は・・・

 職場で打ち合わせ中、机の上のカバンの中にある携帯が震えた。

 私の携帯に電話がかかってくることはほぼない。「またソフトバンクからのお知らせメールかな?」と思った。
 気のおけない相手だったので、「ごめんね」と断って携帯を見る。珍しく、知らない番号から着信している。留守電になりそうだったので、放置して打ち合わせに戻った。
 どうせ間違い電話か何かだろう。

 数分後、また震えた。何だか気になって、警戒しながら電話に出ると、息子の担任の先生からで、息子が階段から落ちて歯を折ったという。

 家族や親戚で今まで歯を折ったりした者はいない。私の中では、骨折よりも重傷である。しかも、「階段」って・・・
 歯だけで済んでいるのか、頭を打ったりはしていないのかと気になる。

 手近にあったコンピュータでかかりつけの歯科医の番号を調べ、「診察時間外になるが、今から診ていただけるか」と問い合わせ、幸い診てもらえることになった。

 ちょうど終わりかけていた打ち合わせを切り上げ、自転車を飛ばして家まで帰り、保険証と診察券を持って車で学校へ迎えに行く。
 こちらから折り返し電話した際、保健室の先生の話では、歯以外は大丈夫そうな話だった。

 それにしても、階段から落ちて何で前歯なんか折るのだ? 私の頭の中では、階段から転げ落ちていって顔面を強打する動きしか思い浮かばなかった。

 が、確かに口の周り以外は大丈夫そうな息子と話をするうち、階段を登っている際に足を踏み外して顔面を打ち付けたことがわかった。
 歯は確かに大きく欠けているものの、それならば大事になることはなさそうである。

 でも、どうして咄嗟に手が出なかったんだろう? ポケットに手を入れていたわけでもないという。
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 約束の時間の10分ほど前に駆け込んだ歯科医には女性が2人いたが、何も聞いておらず、午前の診察は終わったので先生も不在だとのこと。

 狐につままれたみたいである。
 確かにいつもの歯科医に電話して、歯が折れた旨を話し、「わかりました来て下さい」ということになっていたのである。
 だが、押し問答しても仕方がない。いずれにせよ、先生は不在で午後の診察開始までは戻らないというのだ。氷囊を口元に当てて冷やし続けている息子は不憫だが、幸い、一刻を争うような状況でもなさそうである。

 医院のすぐ外で、携帯に残っている発信記録に電話すると、やはり、電話に出た女性は目の前のその医院を名乗る。今、「何も聞いていない」といった女性が出ているのだろうか?
 その蓋然性は低いと思い、「すみません、どこの○○歯科ですか?」と聞くと、同じ市内の別の場所にある医院なのであった。平謝りに謝ってキャンセルする。

 冷静なつもりだったのだが、やはり慌てていたのだろう。市町村名と医院名を入れたネット検索でトップヒットになった別の歯科医に電話していたのだ。何とかコーポ1Fみたいな所在地も、かかりつけとそっくりなので、間違った思い込みが生じたのである。
 そもそも、ネットで検索なんかしなくても、携帯にはかかりつけの歯科医の番号が入っている。携帯を使う習慣がないものだから、思いつかなかった。
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 結局、2〜3時間待って、午後からの診察に行くことにした。

 診察してレントゲンを撮って、「腫れもあるし感染も怖いので、今日のところは触らないで落ち着くのを待ってから処置を考えましょう」ということになる。
 抗生物質と消炎剤と痛み止めに加え、歯磨きができないということで含嗽剤をもらって帰宅。

 次の検診日が近かったので、私もついでに診てもらった。異状なし。
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 前歯のことなので、審美的にも問題ないのを入れてもらおうと思っているのだが、ネットで調べたところ、どうかすると10万とか20万とかになるようだ。
 それは諦めるにしても、「とにかくこれがいちばんいい」といったようなものはなく、高額の素材でも一長一短であるらしい。

 まだ耳も治っていないのに、今度は歯・・・

 天災は、忘れないうちにやってきてしまうのである。