●小型車のいない国

 ソウルを走っている車を眺めていて、違和感を持った。

 それがなぜだかはわからない。おそらく、色々な要素が絡み合っているのだろうと思う。

 車の色なんかは、日本に近い。白い車が一番多く、次はシルバーだろうか。
 どの車も小綺麗で、古い車はほとんど走っていない。
 いわゆる「ワンボックス」を見かけないのは日本と大きく異なる。もっとも、あのタイプの車はガラパゴス的に日本で流行っているだけなので、それはまあ当然だろう。

 一つ思ったのは、小さい車がほとんどないことである。車ばかり見ていたわけではないが、はっきり小型車だなと思ったのはたった1台であった。

 新車販売台数の4割を軽自動車が占める日本と比べると、路上をぱっと見るだけで小さい車がいないことに気がつく。
 いや、軽自動車もガラパゴスなので、かの国に軽自動車がないことを言っているのではない。そうではなくて、フィットとかマーチとか、ルポとかポロとか、206とかC3とかのことである。
 いや、それより大きい、往年のカローラとかサニーとかみたいな車もほとんどない。バスやトラックを別にすれば、走っているのは「中型セダン」みたいな車ばかりである。

 輸入車は、メルセデスだってBMWだってアウディだって走っている。だが、それらはEクラスであり5シリーズであり、A6であって、Cだの3だのA4だのは、ついに1台も見なかった。まして、Aだの1だのA3だのにおいてをや、である。

 これはどうしてなんだろう?

 日本と違って、どんな車でも税金は一律とか、小型輸入車の関税が特に高いとかいうような事情があるのだろうか。それにしたって、都会で大きい車は取り回しが悪いし、燃費だって余計にかかるはずだ。

 私の勝手な想像にすぎないが、クルマがまだ(というべきか)強烈なステータスシンボルとして機能しているのではないかと思った。

 ドイツ車を例に取ると、日本で圧倒的に売れているのはもちろん、Cであり3でありA4だ(調べたわけではない)。おそらくヨーロッパでもそうだろう(アメリカは違うのかな?)。
 しかし、そんなクルマではステータスを誇示できないので、さらに高価なグレードを買いたがるのではないだろうか。
 あるいはまた、「小ベンツ」あたりに手が届く層がまだ薄いのかもしれない。もっと金持ちはけっこういるんだろうけれど。
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 数年前、韓国人の大学教授が「韓国はまだ発展途上国だと思われてますから」と皮肉を込めておっしゃっていた。ご本人はもちろん、韓国は先進国だという強烈な自負をお持ちだった。

 ソウルを歩いているとそこここで昔の面影を目にするものの、韓国は実際、先進国にしか見えない。
 また、風景からはわからないが、たとえば、インターネットへのブロードバンド接続率などは、黎明期から一貫して世界トップ(レベル)であり、日本は常に後塵を拝している。

 だが、先進国「らしく」なったなあと思うのは、おそらく、ポロやルポや Mini やA3や206やC3(や韓国産の小型車)が街に目立つようになったときではないだろうか。

 たまにフェラーリが走っているより、その方がたぶん、重要なんだろうと思う。