●連雀制覇!

 恥ずかしくも畏くもその謦咳に接することを許された、さるやんごとなき御方がお住まいの京都府宇治方面に、生涯に1度見られるか見られないかという珍鳥が飛来しているという情報は手に入れていた。

 しかしながら、私は珍鳥チェイサーではない。ほとんど見に行きたいとも思わないまま、冬が終わろうとしていた。冬が終わると北へ帰ってしまうので、本当に生涯見ることはできないだろう。

 ところが、ひょんなことからその珍鳥を見に行くことになった。

 私より情熱のある方々がそちらに向かわれるというので、少し迷ってお供させていただくことにしたのだ。
 その珍鳥だけだったら、あるいは行かなかったかもしれない。近くにヒレンジャクキレンジャク!もいると伺って、それなら行ってみようと思ったのだ。

 珍鳥は、畏き御方の御在所のすぐお膝元に棲息しているらしい。電車の中で携帯を取りだして、お電話差し上げようかとも思ったのだが(実際、画面のご尊名だけは確認した)、わけのわからない小鳥がどうこうというお話を突然告げるのも申し訳なく、結局は連絡しなかった。

 結果はいつもの通り、「来ない野鳥を待ちながら」を再演してしまった。

 踏ん切りがつかないので、30分だけ待つことにしたのだが、後で偶然、樟葉の駅で再会した方によると、私が去ってほどなく姿を見せ、心ゆくまで観察できたとのことであった。
 いつぞやのサンコウチョウと同じである。

 野鳥は根気のある者にしか微笑まないのだ。

 それにしても、この1羽の小鳥のために関東や九州からもウォッチャーが来ていると聞くと、根性や根気のあるのもほどほどがいいような気がする。
 ___

 さて、表題。

 宇治の平等院鳳凰堂あたりに、ヒレンジャクキレンジャクが出ているというのは、今日初めて伺った。木曜日には数十の群れが観察できたと、写真まで見せていただいたので、こちらは見られるかもと期待していた。

 宇治橋を渡って、平等院の表参道へ入っていく。なんと、宇治川の土手はヤドリギだらけだ。これならレンジャクもいるだろう(ヤドリギはレンジャクのフンから親木に着生することが多い)。
 実際、観察していた方に伺うと、毎年のように来ているということだ。知らなかった。

 ヒレンジャクの方が圧倒的に分布範囲が狭いのだが、その狭い範囲に日本がほぼすっぽり入っているため、それほどには珍しくない。
 キレンジャクユーラシア大陸にかなり広く分布するが、日本ではかなり珍しい。

 そのキレンジャクを、たった1羽だったが、間近で見ることができ、枝かぶりながら写真に収めることもできたので、まあ満足した。

 レンジャク類は、世界に3種しかいないそうだ。残る1つはヒメレンジャクで、北アメリカにしか分布していないという。
 だが、私が最初に見たレンジャクはヒメレンジャクだった。イエローストーン国立公園のマンモスホットスプリングスで、川の中にある温泉に入ろうと川沿いを歩いているときに偶然見つけた。
 レンジャク類らしいことはわかったのだが、当時の私の知識では同定できず、後で先達に教えていただいた。

 その後ヒレンジャクを見、今日、キレンジャクを見た。これで世界のレンジャク類を制覇したことになる。

 「緋」も「黄」も「姫」も、美しくて大好きな鳥なので、バードウォッチャーの端くれとしてちょっと幸せになれた(ただし花粉症が大爆発してしまった)。

 群れない鳥だともっと好きになるんだけど、群れていると壮観であり、悩ましい。

 こんな素晴らしい鳥がすぐ近くにいることを知らないで平等院を観光しているなんてもったいない。その辺の方々に教えて差し上げたい誘惑に駆られたが、お教えしても迷惑なだけだろう。

 私自身、平等院に出かけて鳥しか見ていない、縁なき衆生である。