◆どうして友人にならなかったんだろう?

 ひょんなことから、学生時代の同級生が同じ職場に勤めていることを知った。

 違う部署なので今まで気づかなかったのだが、今日近くへ行く用があり、ちょっと時間も空いたので、顔を出してみることにした。
 会えなくてもともとである。

 卒業後に1度だけ偶然会って立ち話をしているが、それでも20年近いブランクがある。アポイントメントも取らず、直接訪ねていった私に、最初はもちろん怪訝そうな表情だったが、同級生の・・・というと、すぐ笑顔に変わった。
 去年から勤めているという。1年半、知らなかったわけだ。

 前髪の白髪が目立つが、いたずらっぽい表情は昔のままだ。同級生以上友人未満という微妙な関係だったのだが、ちょっと忘れられない男である。

 北海道にも東北にも九州にも沖縄にも(記憶としては四国にすら)行ったことがなく、飛行機にも一度も乗ったことがなく、新幹線に乗ったのは修学旅行と受験の時だけだった19歳の私が、この男の影響で、ヨーロッパへひとり旅をすることになったのである。
 それも、たった1時間ほど、そいつの下宿で話をしただけで決めた。

 実際に行ったのはハタチの時だ。初めてのひとり旅、初めての外国、初めての飛行機・・・、もはや海外旅行がそれほど珍しいことでもなくなっていた時代とはいえ、当時の私にとっては人生の一大イベントだった。

 まあ、それはそれ。

 仕事の邪魔をしても迷惑だろうし、10分あまりで辞去したと思う。MacBook Air を使っていた。

 「また飲みに行こう」「いや、酒飲まれへんから」「あっ、そうやったっけ」「あ、いや、もちろん、飲みに行くのは行きたいけど」

 懐かしがっているのは私だけだったらどうしようと思っていたのだが、向こうからメールアドレスを聞いてきて、名刺を交換した。
 たまたま持っていたのが使い残しの古いやつで、恥ずかしかった。
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 家に帰ってから調べると、彼が何とも楽しそうに立派な仕事をしていることを知った。まあ、そういうこともあるかも、というレベルを超えている。

 競争意識やら嫉妬心やらは、ほんとうにぜんぜんない。ただ、その生き方に眩しさや羨望はある。

 もちろん、同じような生き方をする術はないのだけれど、私なりの、「うん、こんな感じ」と自分で納得できる生き方すらどんなものかもわからないような現状に、彼我の違いを改めて確認する羽目になった。