●あっ、間違えた

 家でトイレに座るときは、新聞や本を読むのが日課である。

 今私が読んでいる文庫本を家人も読んでいるらしく、私が使っている栞(文庫によく折り込んである広告)とは別の栞(文庫本来のもの)が挟んであって、それも移動している。
 私のよりちょっと先にある感じだったのだが、今日は追いつきそうになっていた。

 トイレを出るときになって、いつものように読み終えたところまで栞を移動しようとして、家人の栞の方を動かしてしまった。

 瞬間、「あっ、間違えた」との呟きが声になって出た。

 もはや家人の栞がどこにあったか、しかとはわからないものの、適当に見当をつけて戻そうとしていると・・・

 なんと!

 栞の裏には「あっ、間違えた運 大吉」と大書してあったのである。

 これは「よくある偶然」とはいえず、相当変わった偶然であるように思える。

 解説?には、「人違いから出会いが生まれたり、間違って買ったものが意外なほど優秀だったり……。間違いが、なぜか吉と出る暗示」とある。

 占いなどもちろん信じないが、悪くいわれるよりは良くいわれたほうが気分はいい。
 まして、今回のような偶然があると、ないとはわかっていても、「もしかして・・・」という思いがよぎる。

 だが案の定、いいことは何もなく、今日も終わろうとしている。

 まあ、悪いことが特に起こらなかったことが、いい一日の証なのかもしれない。

 いずれにせよ、これからは「あっ、間違えた運」という変な言葉が折に触れて思い出されることになるだろう。