◆Glass Ceiling と Glass Wall

 Glass Ceiling(ガラスの天井)というのは通常、「社会的な上昇を目指す女性の行く手を阻む、目に見えない壁(天井)」という意味で使われる言葉である。

 だが、今日は文字通りの「ガラスの天井」を見た。その2時間ほど前には、Glass Wall(ガラスの壁)も目撃した。

 何だか不思議な日だ。

 Glass Wall に阻まれていたのはバッタ。子どものころ、トノサマバッタと呼んでいた種類だ。

 職場の非常階段の壁際にいて、何度も飛び跳ねては羽をばたつかせ、ガラスの向こうの草地に行こうともがいているのだが、何度やっても行けない。
 見ている間に十数回はやっていたが、何しろ知能に乏しく、別の方法を試みようという考えは皆無なので、何度やっても結果は同じである。

 ずっと見ていたらどうなるのか、何かの偶然であの窮地から抜け出せるのか、そのうち弱ってしまってひからびてしまうのかはわからない。
 暇だったらずっと観察して1時間ぐらいはつきあえるのだが、さすがにそうも行かず、早々に捕まえて草むらの方に逃がしてやった。

 でも、バッタですら触るのにかなり躊躇してしまう。おそるおそる手を出す3歳の子どものようであった。

 Glass Ceiling に阻まれていたのは大きな黒い蝶。撮った写真と図鑑を見比べると、どうやらカラスアゲハの夏型らしい。

 本屋を出て、トイレに行こうとしている時だった。渡り廊下のような部分のガラスの天井に阻まれて、どこへも行けなくなっているのを見た。

 ちょっと気になったが、人通りがそれなりにあったので最初は素通りした。トイレから戻ってもまだこのままだったら写真を撮ろうと思って戻ってくると、案の定そのままであった。

 人が少なくなっていたので、5分間ほど写真を撮り続けたが、その間結局、天井のガラス1枚の範囲から出られなかった。上へ行こう上へ行こうとがんばっているから、いつまで経ってもダメなのだ。

 こちらは高すぎて助けられないので、可哀想だがそのままにしてその場を後にした。あの後、どうなったんだろう?

 ガラスを超えられなくてもがく、バッタとチョウ。しかしもしかしたら、彼らはそこにガラスがあることにすら気づいていないのかもしれない。

 われわれが、もがきながらも、今いる場所から一歩も動けないときと同じように。



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                  蛇足か・・・