★人事と不条理と文民統制と

 大臣が更迭を決め、後任に内示までした人事を、更迭される当の本人が覆してしまった。

 やや旧聞に属するが、いうまでもなく、防衛省の小池大臣と守屋事務次官のことである。

 いや、どちらの肩を持つとかいうことではなく(強いていえばどちらも嫌いだ)、今回の騒動でいくつか驚いたことがあるのだ。

1.人事に不服な守屋次官が、安倍総理に直接ねじ込んでいったこと

 総理って、そんな簡単に会ってくれるのだろうか。しかも、指揮命令系統を飛び越えて不満を直訴しに来る自衛官(※2)に。
 指揮命令系統こそが命であるはずの組織としても、常識的に考えても、かなり問題だと思うのだが・・・

 その願いを半ば聞き入れて、ケンカ両成敗とばかり双方の希望する人事を外した「最高司令官」安倍氏の見識も疑う。自身が任命したばかりの防衛大臣の判断や命令が部下の直訴で撤回できるような組織が、国家の防衛を担えるのか。
(命令が違法なものである場合など、特殊な例なら別だが)

2.守屋氏が「自衛官」であるらしいこと

 朝日新聞論説委員、高成田享氏(column3.asalon.asahi.com)によれば、「防衛省では、事務次官自衛隊員であり、文民である大臣の指揮下にある、というのが日本型文民統制」なのだそうである。氏自身も、文民とは「背広組(大臣や官僚)」だと誤解していたという。

 とすれば、1の意味もより重くなる。自衛隊員が大臣に逆らっていたのでは、自衛隊(軍)なんて成り立たない。

3.これは別に驚いたことではないが、人生の不条理と漁夫の利

 小池大臣が事務次官昇任を内示した官房長は、どれほど喜んだことだろう。出世には縁のない私にはわからない世界だが、もしかすると出世を最大の目標に据えて官僚人生を過ごしてきたかもしれない人物が、官僚トップの事務次官就任を任命権者の大臣から直接内示されたのだ。

 だが結果はご承知の通り。人生の不条理に腸捻転を起こしそうになったのではなかろうか。

 「ケンカ両成敗」のために、守屋氏の腹にあった本命?人物の次官昇任も見送り。2人とも防衛省を去り、次官に就任するのはおそらくは3番手であった人物であろう。いや、もしかしたら4番手5番手で、「双方が強く拒絶しない人物」を優先したのかもしれない。

 こういう椿事で日本の防衛を担う人物が決するのも喜ばしいことではない。

 まあ、人事なんて往々にしてこういうもので、上層部が不始末を起こしたときこそ出世のチャンスというのは、それこそ毎日のように起こっているのだろうけれど。

 私なんかでも、年上の人たちから「人事のことなので最後まで極秘に」とか「最終的に決定するまでは絶対に口外しないように」などと、さも重大事であるかのように釘を刺されたことが何度かある。
 年を取ってくるとそこまで親切に教えてはくれず、「人事のことなので・・・」で互いにちゃんと了解される。

 私は今でも、その真意がよくはわからないし、あのもったいぶった態度が好きではない。

 だが、今回のように、大臣から直接内示を受けた官僚トップの人事さえ土壇場でひっくり返るのをまざまざと見せつけられると、ああ、こういうことを言っているのか、とヘンに納得させられてしまう。

 嫌な後味とともに・・・