■白ゴリラとの再会

 大学入試センター試験の英語の問題を見ていて、思いがけず、バルセロナ動物園の白ゴリラと再会した。ほぼ24年ぶりということになる。

 当時私が感じたことが、おじいさんの思い出話として語られていた。相手の孫は19歳の女の子である。
 わたしには、孫はもちろん、19歳に届きそうな子どもすらいないのに、「オレはおじいさんかよ」という気がちょっとした。
 たぶん、出題者が感じたことをおじいさんの思いとして文章にしたのだろう。出題者の自己規定は「おじいさん」なのだろうか。

 それはともかく・・・

 スペインのバルセロナ動物園にいたアルビノ個体の白いゴリラは、わたしが今まで見た中で一番頭の良さそうな動物である。当時の日記に、「世界で一匹という自覚にあふれたショーマンだった」とある。
 さまざまな行動をして、見ている人間の反応を窺い、それで楽しんでいるのがありありとわかったのだ。センター試験の問題にも、

  For the first time ever, I felt intelligence and awareness in the eyes of another species.

と、動物の目に知性や意識の存在を発見して驚いた話が書いてあった。
 その後、このゴリラが手を叩いて大きな音を出し、観客をびっくりさせたことが描写されている。これもおそらく、出題者が実際に経験したことなのだろうと推測される。

 もちろん、24年前に見たゴリラのことを思い出すことなんてほとんどなかった。が、この問題を読んで、当時の記憶が甦ると同時に、知らなかった情報を得ることができた。

 それによると、このゴリラはおそらく私と同い年で、3歳のときにアフリカで捕えられて動物園に連れてこられたという。4年前に皮膚癌で死んでいる。
 計算すると、私と会ったときは、ちょうど彼の人生の真ん中にいたことになる。ゴリラとしてはかなり長生きだったようだ。

 だが、たった4年前とはいえ、もう死んでいることにかわりはない。この前スペインに行ったときに、バルセロナまでほんの少し足を伸ばしていれば、あるいは会えたかもしれなかった、と一瞬思ったが、あれは死んだ翌年ということになるようだ。

 いずれにせよ、わたしは出題者?が受けたのと同じ衝撃と感銘を受けるほどには賢明ではなかった。
 でも確かに、あれほど賢そうな動物を他に見たことがない。

 そうか、同い年だったんだ・・・

 でも、死んだ者は年を取らない。彼の賢明さに十分に気づかなかった愚か者の方は、今後も馬齢を重ねていくことになる(はずだ・・・)。