★君よバイクの河を渡れ(その1)

DSC08294 ベトナムで誰もが驚くであろうことがバイクの多さ。ハンパではない。
 一昔前、歩行者の通勤ラッシュのような形で大量の自転車が走っている中国の風景が話題になっていたが、あれのバイク版だと思えばよい。その一台一台が排気ガスをまき散らしながら常に警笛を鳴らして走っている。極悪さは自転車の比ではないだろう。

 空港からハノイ市内に向かうバスの中では、日本人の「うわっ」とか「あっ」とか「おおおぉぉぉ」という声が飛び交う。私自身、自分の乗るバスにバイクがぶつかると思ったことが何度もあった。まわりのバイク同士がぶつかりそうなのを含めれば、数え切れないほどだ。

 窓から熱心に観察していたが、どう見ても秩序というものが見いだせない。何らかのルールが存在するはずだといろいろ考えてみるのだが、ものの数十分の間にそれを見つけることはできなかった。

 10年ほど前、韓国をレンタカーでドライブしてくるという私に、向こうに住んでいた日本人や韓国人自身からも、「韓国で車を運転するなんて自殺行為だ」「旅行者が自分で車を運転するなど絶対にやめた方がいい」と何度も言われた。
 確かに、韓国のバスは日本のタクシーのように走り、タクシーは暴走バイクのように走る。
 だがそれでも、ベトナムバイクの混沌に比べれば、軍隊の行進のようなものである。

 ハノイ市内にはほとんど信号がない。仕事の都合で夜にホテルのまわりを散歩しただけだが、通りを横切るのは簡単ではない。バイクの切れ目を待って一気にダッシュするのだが、その切れ目もなかなかないのだ。

 歩道を散歩したりウォーキングしたりしている人は多いのだが、道を渡る人はあまりいない。こちらから話しかけた親子も、あるところまで来るともと来た道をUターンしていく。みんなどうやって渡ってるんだろうと思いながら、ハノイの夜は更けていく。空気はすこぶる悪い。

 そういえば、ホテルに来る途中、バイクの海に囲まれながらじりじりと横断していく歩行者がいた。歩行者だけではない。自転車もバイク同士も、入り交じりながら混沌の海を渡っていく。

 この大通りにはそれほどの混沌はない。いかにバイクの河を渡っていくのかが勝負だ。次の日は日中の仕事を終えると夜はもうホーチミンへ移動。ここより圧倒的にバイクが多いというホーチミンで、果たして道を渡ることができるのだろうか。