●妻の慧眼

 残念ながら?私の妻ではない。お茶の水女子大学教授で数学者の藤原正彦氏の奥様である。

 奥様によれば、夫である藤原正彦氏の

「話の半分は誤りと勘違い、残りの半分は誇張と大風呂敷」
新潮新書国家の品格藤原正彦著 11-12頁)

なのだそうである。

 奥様の慧眼には感服する。


 「頑迷で鼻持ちならない老耄の書いた胡散臭い本」(morio0101氏)という、まことに正しい読後感を私も確認することになってしまった。

 その『国家の品格』が100万部のベストセラーだというのだから恐れ入る。もっとも、そのうちの2冊はmorioさんと私だ。今後、この種の本は立ち読みすることを固く誓う(本屋さん、ごめんなさい)。

 真面目に言えば、こんな本がもてはやされる国の知的水準も感性水準も相当に危うい。それが「わが祖国」なのだから半ば真剣に心配になる。

 惨めな自分たちの存在を誤魔化すために、虚構かもしれない麗しき伝統に立ち返り、肥大化して歪んだ自己愛を国家や国民に投射したいという、おぞましくも情けないナショナリズムを称揚するような本である。
 言うまでもなく、奥様のおっしゃるとおり、「誤りと勘違い」「誇張と大風呂敷」も少なくない。

 ・・・これではあんまりなので、最後に少し。

 もちろん、1冊の本があって、そのすべてがどうしようもないなどということはほとんどありません。この本の中にも、ほんの少しですが、「なるほど」と思わされる点もあります(どこだったか忘れたけど)。
 また、こんな形で表出されたのでなければあるいは説得力を持ったかもしれない議論も散見されます。

 憂うべきは、「この程度の本をこういう文章で出し、こういう形で煽ればベストセラーになる」と考えたであろう誰かの存在かもしれません。

 それにしても、いくら新潮社とはいえ、こんな「新書」もあるんですねぇ・・・