■潤い?

 すごい湿気だ。ふとんの上に横になると、水を吸ったスポンジの上にいるような感じがする。いや、実際、私のふとんはスポンジみたいなものでできているので、まさにその通りなのだが。

 玄関を例外として、家中がじっとりと湿っている。障子は波打ち、床にはうっすらと水の膜ができている気さえする。掃除機をかけても埃を吸い取っている気がしない。水分と絡んで床にへばりついているようだ。
 玄関は、ほんとはもっとも湿度の高い場所なのだが、そのせいでいろいろととんでもないことが起こるので、ついに観念して除湿器を回している。すると、あっという間にバケツ半分ぐらいの水が取れるのには閉口する。ホームセンターで売っていた水取剤など気休めに過ぎなかったことを思い知らされた。

 それほど暑くはないのが幸いだ。これで暑かったりしたら目も当てられない。以前、夏に日本に来たタイ人の夫妻が暑さにやられて体調を崩したという話を聞いた。日本(というより大阪)の夏はそれほどひどい。湿気や暑さが嫌いな私は、だからなるべく涼しいところへ旅行に行く。

 だが、この湿潤な気候になじんでいる体を乾燥した土地へ持っていくと、それはそれでいろいろと不具合が起こる。今年の場合、手足と顔がガサガサに荒れ、鼻の粘膜はのべつ出血していた。冬にしか症状が出なくなった膝から下の湿疹?も出る。
 涼しく(ときに寒いぐらいだった)てカラッとした気候は精神的にはほんとにいいような気がするのだが、体にも優しいとは限らない。

 始終何かしら体が不調で、かつ、洞察力に乏しい私は、上記のような症状が気候によるものだとは思っていなかった。なんとなれば、鼻から血が出るなんてしょっちゅうだし(いわゆる鼻血ではないので、さすがに垂れたりはしません、念のため)、肌の調子がおかしいことも多い。「乾燥してるからよ」と言われても、半信半疑であった。

 だが、クリームを塗りたくってもおかしかった皮膚が、帰国して2日もすると何もしなくても落ち着いてきた。血のほうもぴたりと止まった。その後すぐ韓国に行ったのだが、向こうは涼しくて湿度は高いという気候だったので快適だった。いや、カラッとしているほうが好きなのだが、体に不調が出た記憶がないのは、やはり湿度が高かったからだろう。

 こう考えてくると、この嫌な湿気も、「潤い」と言い換えることができる。8月という宴の月が終わって、五月病にも似た気だるさがふだん以上に体にまとわりついていても、肌に問題はないし、血も出ない。

 うわっ、イヤだ。机がじとっとしている。髪の毛も何だかペチャッとする。昨日洗ったばかりなのに。

 だがしかし、この世に桃源郷はないのだと思うと、ほんの少し、この湿気も気にならなくなる(かな)。