■人馬一体

 日本の(というより自分の近所の)交通事情と気候を鑑みれば、オープンツーシーターの車に乗るなんて馬鹿げていると思うのが普通の感覚だろう。クルマ好きの私でさえ、乗っている人を見ると「よくやるよなあ」と感じてしまう。世間から見れば、たぶん、ヘンな人に分類されるのだろう。

 それでもなお、気になる存在であるのは確かで、めぼしいクルマがあると見に行っている。トヨタMR-S、ホンダのS2000ダイハツコペンアウディのTT、それにポルシェのボクスター・・・
 できれば試乗してみて、やっぱり不便だよな、とか、ドライビングポジションが、とか、風の巻き込みが、とか考えて自分を納得させる。もともとそれほど欲しいわけでもないし。

 マツダが3世代目となるロードスターを発売した。バブル期に一世を風靡した初代、(おそらくは)時代と合わずに不遇を託った2代目、そして、マツダ復活の象徴として満を持して登場した3代目ということになろうか。

 内外装を一瞥しても、細部に目を凝らしても、これが最新のクルマであることがわかる。外装パネルのチリ合わせ一つ取ってみても、国産車の最高水準だろう。ボンネットもトランクリッドもアルミだ。
 また、これは個人的なことだが、気に入らなかった2代目のデザインは一新され、初代の方向へ揺り戻したことで、私の好みになった。もちろん、はるかに端正な、洗練されたものとなってもいる。
 正面から見ると宇宙船顔というか宇宙人顔というか、ちょっとヘンな感じに見えはするのだが、すぐ慣れるだろう。ヨコのラインはシンプルで綺麗だ。

 わざわざ予約してディーラーを再訪し、試乗した。かなり待たされて乗せてもらった割には、とりあえず何ということはなかったのだが、裏返せば大きな不満もないということである。ただ、オープンの解放感はやはりいい。空を見上げたりしてしまって危ないかもしれないが。

 うーん、こんなもんかな、と、さしたる感動もない試乗の帰り際、ロータリーをくるくると回ってみてちょっと驚いた。

 クルマが、自分を中心にして旋回しているのがわかるのだ。理由はわからない。おそらくは、着座位置付近が旋回ポイントや重心に近かったりするのだろう。とにかく、初めて経験するちょっと異様な感覚で、しかしそれが心地よいのだった。

 カタログを見ると、キャッチコピーは「人馬一体」。だがそれは、初代から一貫して掲げられているコンセプトであるらしい。あれ!? もしかして、オレってこれまでマツダロードスターに乗ったことなかったっけ?
 ・・・考えてみれば、初代の時は縁遠い存在であったし、2代目の時は気に入らなかったせいもあってか記憶が薄い。おそらく、これがはじめてのロードスター体験なのだ。

 しかし、「世界最高のライトウェイトスポーツであると自負している」(カタログ)という性能は、過去にはなかったのではないか。「より進化した「人馬一体」の走り」(同)の片鱗を体験すると、宣伝文句が満更大袈裟だとも思えなくなるのである。

 わが愛車でディーラーを後にすると、自分の体より前で旋回しているのがよくわかる。フロントヘビーと言われながら、実際に走るとそれが気にならない愛車が気に入っていたのだが、乗り慣れたはずのその挙動が不自然に思えてくるのだから不思議だ。

 いや、もちろん、愛車を手放す気はない。だが、珍しく「実際に欲しくなるモノ」となりそうな気はする(買わないけど)。