●どこにも行けない

 春はどこにも行けなくなってしまった。

 あれはもう、十数年も前、ひと月近くアメリカを旅行したのなんて夢のようだ。旅行するために生きてるつもりなのに(笑)、実際に旅行らしい旅行に行けるのはせいぜい年に1回のみ。「旅行らしい旅行」なんて贅沢を言わなくても、昨夏以来、たった1泊の家族旅行すらしていない。

 数年前、「月に1回、1泊旅行をしよう」という目標を立てたこともあったが、その月にすら達成できず、以後、8月を除けばたぶん1度も達成されていない。今や、見果てぬ夢となってしまった感がある。

 そんなに忙しいわけでもないのにこの程度の「夢」が実現できないのは、何に問題があるのだろうか。かくまで人を捕まえて離さない「日常」からの脱出は、ハタチ以来のテーマだ(笑)。

 今回も、どこかへ行こうかと検討を始めたのだが、いつものように取りかかるのが遅すぎたこともあって、結局挫折した。しかし、何が何でもどこかへは行きたくて、生まれて初めて、家からほとんど離れてない場所に泊まることにした。趣味ではないのだが仕方がない。

 遠くへ行くのとはまた違う何かがそこにあるだろうか。あるとは思えないのだが、ともかく少し、日常から離れてみる。