★お近くのローソンで

 コトバというのは基本的に話し手や書き手の恣意にゆだねていいものだと考えている。伝達内容をどう表現するかの最終判断は彼(女)らが行う。わざと間違おうとしているのでない限り、そこには「誤り」は存在しない。ただし、受け手がそこで表現された言語形式を「誤解」した結果、伝達内容がうまく伝わらなかったり、逆に、伝わったからこそ、その言語形式を「間違い」だと認定する場合もある。・・・なんてことを書き始めるとややこしくなるのでやめよう。

 要するに、私は他人が「間違った」言語形式を使うのに寛容であろうとしている。感覚的にはもちろん違和感はあるものの(「ご注文は以上でよろしかったでしょうか」!)、歴史上、すべての「正しい」言語形式は「誤り」によって駆逐されてきたことを知っている者にとっては、つぎつぎと新しい「誤り」が生まれ、そのいくつかがそのうちに正統の地位を獲得していくことはまったく不思議ではない。

 前置きが長くなった。テレビを見ていたら、織田裕二が「これからはコンビニでもご利用できます。お近くのローソンで」と叫んでいる。「ご利用できます」? どこかで見たような表現だ。そうそう、東北のどこかのファミリーマートにも、「トイレもご利用できます」と書いてあった。もしかすると、コンビニの業界用語なのだろうか。

 つまらない皮肉はよそう。これはもちろん、「ご利用になれます」が「正しい」。「間違い」のバリエーションとして「ご利用してください」というのもよく見かける。
 しかし、それにしても、ただの話し言葉ではなく、背後に台本や脚本といった「書かれたテクスト」があるにもかかわらず、(たぶん)日本全国に向かって「間違った」待遇表現を教育してしまうのには恐れ入る。なにせ、テレビなのだ。

 繰り返すが、歴史上、「正しい」言語形式は、常に「誤り」によって駆逐されてきた。だが、メディアが発達するまでは、その歩みはそれほど早いものとはいえなかった。
 ラジオの発展、テレビの発展、そしてついにインターネット!の発展・・・

 これからの言語の変化のスピードがどれほど恐ろしいものになるか。われわれはまだ、その入り口に立っているに過ぎない。

Googleで「ご利用できます」を検索すると、128万!件がヒットする。「ご利用になれます」は、38万8千件。もしかして、「間違っている」のは私なのだろうか・・・)