●別の星から見た星空?

 車の中で寝る。明け方、寒くて目が覚める。山間地だ。しばしエンジンをかけて暖を取る。外気温計は7度を示している。まだ起き出すには早い。トイレに行ってからもう一度寝ることにする。

 車を降りて歩き出すと、正面にすごく明るい星が二つ並んでいるのが見える。等級はどちらもゼロかマイナスだろう。たぶん、角度にして1度も離れていない。ありえない光景だ。朦朧とした気分のまま、夢でも見ているのかと思った。あるいは、別の惑星にでも来ているのかと。

 緯度が一定ならば、星空の様子は決まっている。もちろん季節によって変わるが、少なくとも北半球の中緯度地方ではこんなに明るい星が二つ並ぶなんてありえないことは知っている。星空を眺めるのは嫌いではないのだ。

 辺りを見回してみると、オリオンも北斗七星もふつうに見える。あたりまえだが、地球から見たいつもの星空だ。寒気にふるえあがって目が覚めてくると、おそらくは二つの惑星がたまたま同じ方向に見えているのだということがわかってくる。恒星の見かけの位置は変わらないが、惑星のそれは目まぐるしく変わる。「惑」星と呼ぶ所以だ。たまたまこんなふうに接近することもあるかもしれない。
 こんなに明るいことを考えると、金星と木星だろうか。あるいは土星かもしれない。

 それにしても、明け方の星を見ることなど、朝に弱い私の人生では数えるほどだ。天体ショーが予告されていてさえ、明け方だと諦める。なのにたまたま、旅先で見る。寒さで目を覚ましたために・・・ 楽しいことのほとんどなかった旅だが、この幸運だけは認めざるをえない。