★前途多難

 アイスランドを訪れる人の多くは、ブルーラグーン(水色の温泉をたたえた湖)と首都のレイキャビク、それに、ゴールデンサークルと呼ばれる、大地の裂け目(ギャオ)や間欠泉や滝などが見られる地域だけを観光するらしい。

 ぼくたちも、アイスランド観光の実質初日、国際空港近くの宿を出て、ブルーラグーンからレイキャビク近郊を経て、ゴールデンサークルの一部を回った。レイキャビク自体にはまだ足を踏み入れていない。

 この地域は、アイスランドでもっとも観光化されているはずだ。実際、ブルーラグーンやギャオには100人を超えるくらいの観光客がいたと思う。後者には、見渡せるエリアで数百人はいたかもしれない。
 ___

 5か月前、「何もない荒野をお腹を空かせながら延々走り続けることになるんだろうなあ・・・」と書いた。だから、初日に起こった出来事は「想定外」ではない。
 でもまさか、アイスランド最大の観光地を回りながらそんな目に遭うとはさすがに思っていなかった。

 海外を旅行するときにまずすることは、通りがかりにスーパーマーケットを見つけてミネラルウォーターを大量に購入することだった。
 ところが今回は、どれだけ走ってもスーパーなんて見つからなかった。それでも、その時点ではまだ、「天下御免の大観光地に行くんだから」となめていた。

 ところが、ブルーラグーンの周囲にすら、店は一軒もない。そこからギャオに向かう途中、食事ができそうな場所はケンタッキーフライドチキンただ一軒だったが、アクセスがわかりにくくて通過してしまうと、もう一切のレストランもカフェもスーパーもなくなってしまった。
 ほどなく、溶岩原をえんえんと走ることになった。

 もはや、どんな建物も存在しない。

 お腹を空かせているのはまだしも、喉の渇きには閉口する。やっとのことでギャオを擁する国立公園の入口あたり、きれいな湖を見下ろすロードサイドに車を止めた。
 数台の車がいて、韓国人の女の子が4人、ピクニックランチを楽しんでいた。

 しばらく景色を眺めた後、思い切って話しかける。「アンニョンハセヨ。Do you speak English ?」
 その食べ物や飲み物はどこで買ったのかと聞くと、質問の意図がわかったのだろう、苦笑いしながら「レイキャビク」と声を揃えて答えた。こちらも脱力した笑いを浮かべながら「レイキャビク・・・」とつぶやく。
 「カンサハムニダ。アンニョンヒカセヨ。」

 幸いなことに、しばらく走るとギャオに着き、水を買うことができた。ただし、500mlで300円。いつものヨーロッパなら、それで6リットルくらい買えるだろう。

アイスランド一周なんかやめて、レイキャビクから半径100kmくらいだけの範囲でのんびりするのはどうだろう? それなら悲惨な目に遭うことは避けられそうな気もする。
とも書いた。
 だが、レイキャビク近郊でも、こんな目に遭うのだ。

 前途多難である。