◆ようこそ、21世紀へ
新しい車を買うと、突然、21世紀になった。
いや、昨日まで乗っていた車だって、21世紀になってから製造されたものだ。
しかし、前世紀の残滓を引きずっていたそれは、インパネの表示は単色のドット文字、カセットデッキが標準でついていて、カーナビはないという仕様であった。確か、オプションですら選べなかったので、仕方なく後付けした。
今度の車は、「走ることもできるコンピュータ」である。ちょうどiPhoneが「電話することもできるコンピュータ」であるのと同じように。
新しい車に乗っている人には当然のことかもしれないが、今度の車は、持っているキーを使うことすらない。
ドアを開けようとすれば自動的にロックが解除され、ボタンを押せばエンジンがかかる。降りてからドアに触れると今度は施錠され、ドアミラーが折りたたまれる。
iPhoneとは一瞬で仲良しになり、ケーブルをつなぐことも面倒な操作をすることもなく、車自体が電話になる。スピードメーターとタコメーターとの間に電話帳が表示され、ステアリングに手を置いたまま電話がかけられるし、かかってきた電話に出ることもできる。
CD/DVDプレイヤーもついているのだが、そんなものはいらない。iPhoneの中にある音楽も映画も、スピーカーから流し、画面に映し出すことができる(映画はiPhoneに入っていないけれど)。
その画面は、ダッシュボードからするすると生えてきて、用がないときはスムーズに格納される。
エンジン特性や変速タイミング、ステアリングの重さなども好みに応じて変えることができる。
あるいはまた、追突しそうになったら自動で止まるし、前の車の速度に合わせて車間距離を保ったまま追従できる。しかも、まるで人が運転しているかのごとくスムーズに、停止や発進までやってのける。
それでいて、2001年に買った前の車よりはるかに安いのである。もっとも、排気量は半分以下で四輪駆動でもないが、雪道を走るのでなければ、走行性能にも何の不満もない。燃費も優秀だ。
そうそう、トルクコンバーターを介したオートマチックではなく、それぞれのギアでクラッチがダイレクトにつながる自動7段変速で、もちろん手動変速もできる。
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納車時に説明を受けていたとき、横にいた家人は、「こんな車、私にはとても運転できません」と営業マンに言っていた。まあしかし、運転自体はもちろん、従来の車と同じである。
ただやはり、こういうコンピュータ(というかインターフェース)に慣れていない人にとっては大変なようで、ディーラーは納車後も取扱説明に追い回されているそうである。
そういう意味では、技術は常に過渡期であり、21世紀もなかなか一筋縄ではいかない。
もうひとつ。
こういう車に抵抗がなく、むしろ嬉々として使う私も、別に手放しで喜んでいるわけではない。
つい1年半ほど前に買ったバイクはかなりアナログで、風防には方位磁石を、メーターの下には温度計を後から貼り付けたりしている。エンジンはコンピュータ制御の燃料噴射で、メーターはデジタル表示ではあるものの(でも白黒)、それ以外に21世紀を感じさせるものはほとんどない。ギアだってマニュアルを選んだ。
だが、それはそれでいいのである。いやむしろ、もっとアナログ(&アナクロ)であってもかまわない。そんなバイクやクルマは、もはや新車では手に入らないけれど。
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懐かしさを感じさせるものと未来を感じさせるもの。
その双方に魅力を感じられる自分に、珍しくちょっとした満足感を覚えている。