■実を言うと・・・

 実を言うと・・・というほどのことでもないのだが、ヨーロッパの街というのはいくつか見ると飽きてくるし、これまでだってあちこち見ているのだから、今回の旅行も、最初はともかく、ウィーンを見てマリボルを見てブダペストを見てまだプラハが残っていると思うと、「もう街はいいや」という気分になっていた。

 クラクフはそれなりに大きな目的地の一つだったのだが、それでも、スロバキアを後にするころには、車で街に入るのもけっこう面倒くさいし、もう飛ばしてしまって郊外のペンションにでも泊まり、近くにあるヴィエリチカ岩塩坑アウシュビッツだけを訪問しようかとも考えていた。

 「前の夜にやっておけばいいのに」という冷たい視線を背後に感じつつ、スロバキアを発つ朝、ちょっとした気紛れからネットでクラクフの宿を予約したのが今回の僥倖につながった。

 アパートメントも街自体も、まさに僥倖であった。

 もうひとつ。

 教会というのもいくつか見ると飽きてくるし、これまでだってあちこち見ているのだから、もう中に入らなくてもいいやと考えていた。
 実際、ウィーンやマリボルでは入ったが、ブダペストの教会には入らなかった。

 ところが、クラクフの聖マリア教会の内部は、ちょっと覗いてみて仰天した。これまで見た中で間違いなく飛び抜けて一番壮麗だった。

 観光客用の入場券を買おうとして財布をアパートメントに忘れてきたことに気づき、無駄に往復したことは小さな不幸だったが、中に入ってからは、時間が来て追い出されるまで、ため息をつきつつ、ずっと写真を撮っていた。
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 街なんてどこでも同じ、教会なんてどれでも同じというのは、私のような鑑識眼のない者にとっては、それはそれで一面の真実ではある。

 しかしそれでも、クラクフとその教会のように、そんな傲岸な予想を裏切り、「これならお前にも違いがわかるだろう」と叱りつけてくるような存在がある。

 そういうものがあることを忘れていたのは、やはり想像力の欠如によるのだろうか。