◆アアイフ人ニ、ワタシハナリタイ
いつもの寿司屋(といっても、最近ちょっとご無沙汰だった)。
敷居が高そうに見える店なので、予約なしの一見客というのはまずいない。私自身、存在を知ってから最初に予約を入れるまで2年ほどかかった。
その店でお昼を食べていると、飛び込みの一見客。「自転車はどこへ置けばいいですか」と聞いて、答をもらうとまた出て行った。
板前も「予約なしで初めていらっしゃるというのは珍しいなあ・・・ 前にいらしたことがあるのかなあ?」とか言っている。
再び入ってくると、今度は「靴のまま上がっていいですか?」と聞く。上がってからは「トイレはどこですか?」
明らかに初めての様子だ。
40前ぐらいの女性2人組である。
そのうちの1人が、カウンターに座るやいなや、「すみません。暑いので、温度下げてもらえませんか?」と来た。
今、この温度で、板前2人も先客(私だ)も快適に過ごしているのだ。
客商売だから、もちろん笑顔で応対し、言うとおりにはする。
しかし私は、「暑いのはアンタが自転車に乗って来たからやろ」と突っ込みたくなった。この辺はとても坂が多い。
顔にも口にも出さないが、板前もたぶん、同じことを考えていたのではないかと思う。
期間は短いながらも既に「常連」となって、板前といろんな話を気楽にする私でも、なかなか自分の都合でああしてくれこうしてくれとは言えないものだ。
赤だしの出るタイミングをもっと早くしてくれないかなあとずっと思っているが、いまだに言えないでいる。
自転車に乗って坂を登ってきた自分が暑いからといって、敷居の高そうな初めての寿司屋で、いきなり「暑いから温度下げて」というようなことは、とても真似ができない。
でも、ああいうふうに素直にさらっと言えたら楽だろうなあとはしみじみ思う。
アアイフ人ニ、ワタシハナリタイ・・・