◆徒労の効用

 朝、4時8分に目覚める。寝たのは1時をかなり過ぎていたから、3時間も経っていない。

 もう少し寝ようと思ってもなかなか寝付けず、起きるしかないかと時計を見ると4時33分だった。

 ぎりぎりである。こうなると、もう「お告げ」なのかと思い、寝床を出た。

 前夜ちらっと、はるばる大阪・和歌山府県境まで鳥の標識調査に出かけようかと思っていたのだ。自宅からだとほとんど大阪府縦断になる。
 もちろん、標識調査といっても、先達がなさるのを見学させていただくだけだ。
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 銃や麻薬と同じ、一般人は所持しているだけで罰せられるカスミ網を使って鳥を捕獲し、同定・測定してから足輪をつけて放鳥する。
 最初の捕獲でどのような個体が生息しているかが明らかになるし、再度の捕獲で記録されれば、生態がより詳しくわかってくる。

 いちばん捕獲数の多い朝一番の網の成果を見るには、朝6時半に現地に着かなければならない。ということは、ほぼ4時起きということになる。

 今回はそんな気力もなく、行くつもりはなかった。だから就寝も1時を回ってからだったのである。

 なのに冒頭の起床。「4時起き」というのが、サブリミナルにインプットされていたのだろうか。
 「お告げ」のお蔭で、ちょうど6時半ごろ、現場に着いた。

 ところが・・・

 朝一番の網は空振り。その後1時間おきに見て回るものの、ずっと空振り。スズメ一羽捕獲できない(もっとも、山の中なのでスズメは生息していないのだが)。

 結局、お昼前に「ボウズ」のまま辞去した。

 例によって、この3連休も家人は毎日出勤している。
 調子がよければ夕方までいようと思っていたのだが、これほどの不作なら、昼過ぎに帰って息子に昼食を食べさせてやろうと思ったのだ。夕刻に帰る家人に間に合うようにケーキも買っておきたい。

 朝5時過ぎから高速道路を飛ばし、山道を上り下りしてはるばる往復したのは、ほぼ徒労だったということになる。
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 しかし、それでいて、気分に余裕ができて気持ちが穏やかになっているのが自分でもわかった。特に夕刻の仮眠後は顕著で、また明日から(というより、今夜家でパソコンを開いた瞬間に)仕事が始まることを憂鬱に思わないほどであった。

 珍しい鳥を間近で見られた喜びや興奮がないぶん、むしろ穏やかな心持ちでいられるのが妙である。

 土曜も日曜も休みであった。だが、連休を経てもこんな気分にはなれなかった。

 ストレスフルな日々に逆なでされ、ややもすればささくれだつ神経を鎮めるには、思い通りにならない自然の中で徒労感を覚えることが、案外役に立つのかもしれない。
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 後記:だがその効用は1日と持たないのであった・・・