★チタンのタンブラー あるいは 大人買いについて

 休暇の最終日だったか、久しぶりにデパートに出かけた。

 目的もよく思い出せないのだが(といっているうちに思い出した。5年越しで検討しているソファを見に行くのがひとつだった)、休暇らしいことは何もしていなかったし、猛暑の中、非文化的な夫婦としては、涼しい屋内でそれなりに楽しめそうだったのはデパートぐらいしかなかったということかもしれない。

 家人の趣味でフレンチっぽいランチを食べ、ウィンドウショッピングをする。

 田舎のデパートのこととて、期待したソファは種類が少なくて気に入るものはなく、唯一、ちょっと欲しいかなと思ったものは70万円超で、おいそれと買えるものではない。
 ソファが一生ものではなく、10年ほどで寿命が来ることを知ってしまった今となっては、たぶん今後も買わないだろうと思う。

 相変わらず、物欲はないし倹約家なので、ひととおり見回っても買いたいものはない。たまに、ちょっといいかな? と思って見たりすると、ベルトが一本3万円とかで一気に買う気が失せる。

 それにしても、こんな田舎のデパートですら、ひとつ何百万円とかいう時計がずらずら並んでいるのには驚いた。いったいだれが買うんだろう? しかもこんなところで。

彩 そんな中、ひとつだけ、買ってもいいかなと思うものがあった。チタンのタンブラー(「彩」)、1万2600円。

 中が真空の2重構造になっていて、暑いものを入れても冷めず、冷たさもキープできる。握る手は熱くも冷たくもないし、冷たいものを入れても外側に水滴がつかない。

 チタン、という単語に弱いし、機能本位の製品は好きだ。チタンを再結晶させる時にできるという表面の紋様の質感もいいし、デザインだって悪くない。

 しかし、申し訳ないが、こういうものはデパートでは買わない。ネット通販で買えばおそらく一万円を切るだろうと思ったし、惚れた、というほどでもなかった。

 家に帰ってからも「どうしようかなあ」と思っていたが、メーカーの宣伝文句なんかを読んでいるうちにだんだん本気で欲しくなってきた。
 軽いし丈夫だし、まさに一生ものである。旅行に持って行くにも便利だ。

凜 だが、ネットでいろいろ見ているうちに、ひとつ問題が出てきた。デパートで見たもの以外に、もう少し大きくて高価(1万5750円)なタンブラー(「凜」)もあるのである。

 どちらにしよう? 気に入ったのは「彩」のほうだし、「凜」は実物も見ていない。でも捨てがたい・・・
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 次の日だったと思う。ふと思いついた。

 どちらにするか悩む必要はない。両方買えばいいではないか・・・

 ボーナスでも何も買っていないし、今年はどこにも出かけていない。一生使えるタンブラーに2つで2万円ぐらい使ったって、どうということはないだろう。
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 こんな「大人買い」をするのはたぶん2度目だ。セスナの鍵のキーホルダー代わりに金貨を使おうと思いつき、今はなき千里中央の「銀座ジュエリーマキ」でどちらにしようか迷っていた時以来である。
 私としては長時間、さんざん迷った挙げ句、めんどくさくなって、「両方ください」と言ってしまった。

 2つあわせてもたかだか数万円とはいえ、迷っていた品を両方買うという客は多くないと見えて、店員が明らかに驚いていたのがわかった。いや、私だってあんな買い方をしたのは初めてである。
 ひとつは家人にプレゼントした。
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Titanyui 今回はしかし、伏兵がいた。
 いろいろネットで検索していると、もう一つ、「結」というのが見つかったのだ。それも、3万1500円と極端に高価である。メーカー直営のネット販売では見つからなかったのに。

 一生使えるタンブラーに5万円ぐらい使ったって・・・とはさすがに思わなかった。

 大人といっても、久しぶりに欲しくなったものにたった5万円の支出ができない程度の大人なのである。
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 結局、ネットで安い方の2つ(「彩」と「凜」)を買い(あわせて2万円強ですんだ)、木曜日からずっと愛用している。
 チタンだから軽くて、いくぶん安っぽい感じがしないでもない。でも、氷がいつまでも溶けず、飲み物を長い間冷たくキープできる性能はさすがである。

 もう少し大人になれたら、「結」も買おうかと思う。

 しかしこれ、「彩」はたとえばオンザロック、「凜」はたぶんビール用である。飲んでるのが牛乳とかヨーグルトとかカルピスとかグレープジュースとかいう、「お子様(=私)」が使うような品ではないのだが。