●パリの洗礼
伊丹→成田→シャルル・ド・ゴールと飛んだ。眼下のシベリアはみごと。ウラル山脈にかかると雲海で何も見えない。
いつもこんな感じだったと思う。
空港からRERのB線でパリ市内へ。荒れた郊外の風景が続く。初めてパリに来るなら、このルートはダメだろうなあと思う。
バリアフリーになっていない薄汚れた通路や階段を、重い荷物を引きずりながら苦労して進み、やっとの思いで地上に出ると、そこはセーヌ川のたもと、シテ島にたたずむノートルダム大聖堂が見える。
「財布がない!!」という大声が傍らから・・・
晴れやかな気分が一瞬で暗転する。
連れの女性が肩にかけていたバッグから財布をすられたらしい。いくら探してもない。しかも、キャッシュカードやらクレジットカードやら、事情があって現金十数万円までもが入っていたという。
パリは初めてだという彼女への手痛い洗礼である。長い人生で初めての経験だそうだ。
これが家族なら、互いの持ち物に目を光らせ、特に私が他のメンバーの面倒を見るのだが、今回の連れは、プライベートやら仕事やらで私より頻繁に海外に出ているお二人だったので、油断していた。
飛行機の中で、30年ぶりにヨーロッパに行くというご婦人が「地下鉄などに乗っても大丈夫でしょうか」とおっしゃるので、「大丈夫だとは思いますが、スリなんかはいますので十分お気をつけ下さい」などと言っていたところだったのに・・・
この件で、滞在中、4〜5箇所の警察に出向く羽目になった。ここはそもそも開いていない、ここは2時間待ち、ここでは扱っていない・・・
まあ、いい社会見学にはなったが。
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とにかく地下鉄にばかり乗っている旅だった。ルーブルにもシャンゼリゼにも行っていない。ノートルダムだって一瞬見ただけだ。
まあ、仕事だからそれでいいんだけれど。