●傍若無人

 関西空港に向かうバスの中で、すぐ後ろの席に座った小さな子どもが大声を出したり時には泣いたりわめいたりしていた。親の膝に乗っているので、下手をすると耳元から30センチぐらいの距離である。午前1時ごろに寝て4時半に起きたので、バスの中では寝ようと考えていたのにぜんぜん寝られなかった。
 でもまあ、子どものことだから仕方がない。両親だって静かにさせようと苦労していた。それで腹を立てるほど人間ができていないわけではない。

 困ったのは飛行機に乗ったときに右隣に座ったカップルだ。

 棚にないのがわかっているのに日経指定で新聞を持ってきてくれと頼み、そのせいで、アテンダントが何度も来て、
「ただいまはすべて出払っておりまして」だの
「空きましたらお持ちします」だの
「産経がございましがよろしければ」だの
「代わりに週刊誌をお持ちしましたがいかがでしょうか」だの
「ご希望に添えなくて申し訳ありませんでした」だのと
何度もやってきては私の顔越しに話をする。迷惑なことこの上ない。
 何か注文した客に親切にするのはわからないでもないが、明らかに過剰である。クレームが出るのを恐れているのだろうか。おとなしくて何も要望しない客は、ひたすらに迷惑を蒙るばかりだ。もうすぐファイナルアプローチだというころになって
「やっと空きましたのでお持ちしました」というおまけまでついた。

 まあしかしそれは、客の問題ではないからいい。このカップル、食事の時には夫婦そろってサントリーのプレミアルモルツを注文し、男の方は食前食後にコーヒーやら何やらを注文し、終わってしばらくしてから、わざわざコールボタンでアテンダントを呼びつけて、今度は赤ワインを注文している。
 ものすごい匂いに驚いて右を向くと、隣の女性がなんとハッサク?を剥いている。やっとの事で見つけ出した小綺麗な服にピッピッと鋭く黄色い汁が飛ぶ。エコノミークラスのほとんど密着した座席で、隣に他人が座っているときにこんなことをするなど言語道断である。仕方がないので寒いふりをして毛布を肩まで引き上げ、防御した。

 ハッサクが終わると、連れらしい後ろの女性もアテンダントを呼びつけて「赤ワイン2本」とか言っていた。降りるときの台詞がふるっている。
「ゆっくり飲まれへんかったわ」。
当たり前だ。たかだか1時間あまりのフライトで食事まで出るのに、その後からワインを2本も注文して、どうしてゆっくり飲めるのか。

 日本航空日本航空である。会社がつぶれそうだというのに、こんな短時間の朝のフライト(しかもエコノミークラス)でワインなどを出す必要はない。プレミアムモルツとエビスしか積んでいなかったようだが、第3のビールで十分である(というか不要だ)。
 傍若無人な客がタダだと思ってあつかましく注文する酒の値段までチケットに含まれていると思うと、情けなくなってくる。
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 空(あ)いた時間に片付けようと持って行った仕事に、まったく手を着けることすらできなかった出張を終え、やっと家に帰れると思って乗り込んだ帰りの空港バス。

 空(す)いていてよかったと思ったのも束の間、乗ってきただけでバス中がタバコ臭くなるオッサンがすぐ前に座った。とてもこの場所には座っていられない。バスが禁煙でもほとんど無意味である。
 幸いガラガラだったので、ただちに最後尾まで避難した。そこでも臭ってはくるが、いくらかはましだ。ただし、乗り心地はすこぶる悪い。揺れる座席で膝の上にパソコンを載せて、出張中の資料の整理。我慢我慢・・・
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 他人のいるところに出て行くと、さまざまな迷惑を蒙る。もちろん、「お互い様」な部分もあるのだが、収支は決して均衡していない。傍若無人な奴ほど得をするシステムになっている。嘆かわしいことである。