★不憫なリス

 Icefields Parkway を北上中、リスを轢いてしまった。

 左側から飛び出したと思ったときにはもう、なぜだかリスの運命を確信していた。
 何の操作をする余裕もなく、コンマ何秒か後には、左側のタイヤの下を、ごく小さなギャップを乗り越えたときに感じるような、コンッコンッという軽い音を残して、不憫なリスは通り過ぎて行ってしまった。
 バックミラーで見ると、つい2〜3秒前には軽やかに躍動していた体が、まったく動かずに道路に横たわっているのが確認できた。
 はかない命だ。

 しばらくしてから広くなったところで車を停めて子細に確認すると、左後輪の前側の泥よけに、ほんの少し、肉片と毛がついているのがわかった。
 自分の命を奪った巨大な機械に、それ以上の痕跡すら残せない哀れな死である。

 申し訳ないと思うがどうしようもない。家族3人で詫びて祈った。その間も、別のリスが回りをちょろちょろと走り回っていた。

 道路には、リスと思しき小動物の死体がときどき見受けられる。中には鳥もいる。数えてはいないが、Icefields Parkway 全体では、20を超える遺骸を目にした。
 その一つの犯人になってしまって忸怩たる思いだ。

 が、一方で、可能性は少ないけれど、大型の動物とぶつからなくてよかったとも思う。年間で数百頭の動物が交通事故で命を落としているというのだ。もちろんその数にリスは含まれていない(可哀相なリス)。
 車は時には100km/hを超える速度で走っているのだから、飛び出してきたらひとたまりもないし、相手が大きな動物だったら車の方だって無事ではすまない。

 Caution ! Caribou crossing. とか Don't feed wildlife. とかいう看板をしょっちゅう見かけたが、幸か不幸かリス以外に道を渡る動物はなく(後記:モレーン湖からレイクルイーズに戻る途中、イタチのようなのが横切ったのを思い出した)、仮に望んでも、エサをやれる機会もほとんどなかった。
 ぶつからなかったことを思えば、もしかすると「幸」だったのかもしれない。

 Icefields Parkway を南に向かって引き返していたときには、思いがけず、マウンテンゴートを見た。ガイドブックにはなかなか見られないと書いてあったので、望外の喜びであった。
 一方、ずっとふつうに見かけるはずの、ビッグホーンシープは見なかったし、比較的見ることもあるというブラックベアやグリズリーベアもまったく見られなかった。

 マウンテンゴートを見た人も、リスを轢いた人もそう多くはあるまい。

 ごく小さな幸不幸を織り交ぜて、日々過ごしていた。

 私にとってのごく小さな不幸が、リスにとってはこの世の終わりだったことは、とても申し訳なく思う。