★暇な旅人

 朝10時ごろ、宿を出る。

 年配の女性がオーナーだ。二組しか泊まれない、Tourist Home と呼ばれている普通の民家である。敷地の面積も決して広くはない。もしかすると100坪もないのではなかろうか。
 その狭い敷地を、実にみごとに花で飾っている。門扉には Welcome to the Garden の文字。

 いよいよネット接続はないかと思ったが、昨夜にはあることがわかり、今朝、パスワードを教えてもらった。

 どこに行くという予定もなかったので、宿の女性が教えてくれたエリアを順次回ることにする。

 Patricia Lake と Pyramid Lake は、車で10分ほど行って戻ってくるだけにしようと思っていたが、地図の Pyramid Overlook の文字に騙されて、景色がいいのだろうかとちょっと歩いてみることにする。

 トレイルにはひとっこひとりいない。そのうち、太い道を逸れて、細い枝道に入る。

 一応、リスや鳥を見、大型の哺乳類を探してはいるのだが、何だかもう、ここがどこなんだか、自分が何をしているのかがわからなくなってくる。

 いいや、もう、どこでも。

 頭の中にグーグルアースを作り、自分のいる場所を思い浮かべ、くるっと回して自宅付近を想像する。

 だが、距離感はつかめない。遠い異国にいても、なんだか近所の山でバードウォッチングをしているような気分だ。

 違う点は、見かけた鳥の名前がどれ一つとしてわからないこと。Gray(Grey) Jay だとか  Black-Billed Magpie だとか、Clark's Nutcracker だとかはかろうじてわかるのだが、今日はどれも見なかった。

 頭黄色ウッドペッカーとか、黄色ウグイスとか、例の地味鳥とか、勝手な名前をつけながら観察する。

 やはり、遥か遠くに来ているのだ。鳥でも飛んでこれないほどの。

 こんなところまで来て誰もいないトレイルを歩いているなんて、ほんとに暇だなあと思う。

 Jasper の街に戻ると、ちょうど正午になっていた。