◆「匿名希望」の軽さ

 個人情報保護の観念がひろく浸透して、そのことに意を用いすぎるあまり、業務に支障を来すほどになっている職場も多いことと思われる。
 本気であらゆる可能性を考えて情報漏洩がないようにしようとしたら、仕事が進まなくなってしまうだろう。日々、苦渋の選択を迫られている人も多いはずだ。真面目に悩む人は特に可哀想である。

 そんな時代に・・・

 車中で聞いていたNHKのラジオで、「匿名希望」の人の氏名を読み、そのことに気づいて謝罪しながら、続いてその投稿内容を放送したのには、人ごとながら背筋が寒くなった。
 しかも、二日と間を置かず、違う番組で連続2回、まったく同じ展開の放送を聞いた。1度目は夕方のニュース、2度目は昼の番組である。

 もしかしたらよくあることなのだろうか。だとすれば、対処方法のガイドラインすらないらしいことにも驚く。

 投稿内容は確かに、まったくの赤の他人が聞く分には、別に匿名でなくても良さそうな内容ではあった。だから、読んでいる方にも甘えがあったのだろう。
 しかし、間違えて匿名希望の人の氏名を全国に放送して謝罪までしたのなら、その投稿内容の放送は控えるのが最低限の常識だ。

 間違いはだれにでもあるが、間違いを認めて謝罪した後に、意図的にその間違いを拡大するような行為に及ぶのは信じられない。

 匿名にしたいのは当人にしかわからない深刻な理由があるからかもしれない。1度目の例でいうと「会社にばれると困る」とか、2度目の例では「姑に知られると話がややこしくなる」とかは、可能性として私にも想像できた。
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 全国に向かって生放送している人たちの、個人情報に対するいい加減さ、「匿名希望」に対する扱いの軽さには、ほとんど目眩がした。

 NHKにしてこれだというのを聞かされると、個人情報保護の観念はもっともっと広がるべきなのかもとすら思ってしまった。