●あの訃報この訃報

 次期アメリカ大統領に選出されたバラク・オバマ氏の祖母が、ぎりぎりで孫の晴れ舞台に間に合わず亡くなったという。
 いくつであっても無念には違いなかろうとは思うものの、86歳。まあ、仕方のないことか。
 ただ、本人や周囲にしてみれば、せめて大統領就任まで、いや、少なくとも当選までは生きて喜びを分かち合いたかったことだろうと思う。

 その2日後には、『ジュラシック・パーク』の作者で『ER』の製作総指揮も務めたマイケル・クライトン氏が逝去。こちらはまだ66歳。オバマ氏とは特に関係ないとは思うが、ハーバード大学イリノイ州、シカゴなど、なぜか共通点がある。

 そのさらに2日後には、私の祖母が死去。99歳。

 最初の2つの訃報はおそらく世界を駆け抜けたが、最後の訃報は孫である私にも気づかれず、半日放っておかれた。
 ふだんは見向きもしない携帯電話も、ここ数週間はときどき着信がないか見るようにしていたのだが、両親は携帯にまで電話してはこなかった。

 これまでやったことのない初めての仕事で、60人の外国人を前に、ほぼ同数の日本人に見守られながら、即席の3分コマーシャルをやって、それなりに好評を博していたときには、祖母はもう、この世の人ではなかったのである。

 知らなかった。

 まあ、知っていたとしても、大きな違いはない。通夜と葬式には何とか参列するものの、忌引きも取らず金曜も土曜も仕事に出かける。

 祖母があと数日どころか、数年生きていたとしても、私の晴れ姿を見逃したかもしれないという気遣いはない。
 孫は私以外に4人いるが(少ないな)、そちらも似たり寄ったりである。

 でも、そのお蔭で、「せめて孫が大統領に選ばれるまでは」とかいう、結局はかなえられない生への渇望を抱かずにすんだであろうことは、かえって幸いだったかもしれない。

 何といっても99歳。

 もしかしたら、私のすべての祖先の中で最も長生きだった可能性もある。それを越えて100歳まで「元気で」生きることを目標にして、せめてもの供養としたい。