●店をたたんで

 土曜日。

 午前中は、掃除・洗濯・仕事(家人は職場で仕事)。

 終業式から帰ってきた息子と一緒にスイカを食べ、車検に出していた車を取りに行く。

 代車に借りていた高級車ともお別れ。
 愛車に乗ったとき、ほんの一瞬、キーを差し込まずにエンジンがかけられる気がした。

 借りていた車の一番の美点は、しっとりと落ち着いた乗り味だと改めて気づく。

 二回りほども小さく見える自分の車は、ショートホイールベースや固めた足回りともあいまって、やや落ち着きがない。代車が軽く「タンッ」ないし「トンッ」といなしていた凹凸を「ダンッ」ないし「ドンッ」という感じで通過する。

 ほれていた直進安定性も、心なしか劣る気がする。何より、車が異様に小さく感じられ、その小ささがマイナスに作用しているように思える。こんな気分になったのは初めてだ。
 まあ、またすぐに慣れて、しっくり来るようになるだろう。

 プラグを変えたので、違いが感じられるかと期待したが、そう思ってアクセルを踏んでも、わかるかどうか微妙である。オイルも変えてもらったし、もう少し変化があるかと思ったんだけど。

 おいしいうどん屋さんで初めての味噌煮込みうどんに挑戦し(鍋焼きうどんにははるかに及ばなかった。息子は天ざるうどん)、ガソリンを入れ、スーパーでバナナや牛乳などを購入。

 さて、本題。

 黒毛和牛のサイコロステーキを買おうかどうか思案していると(買わなかった)、背後から試食の声をかけられた。

 「あ、いや、けっこうです」
 「そうですか、どうも失礼しました」

 顔もほとんど見えなかったが、その声だけで知っている人だとわかった。以前ひいきにしていた電器屋の奥さんである。
 夫婦で小さな店を経営していて、郊外にあって日本橋価格に対抗してがんばっていらした。現在うちにある洗濯機だって冷蔵庫だってエアコン(のひとつ)だってそこで購入したものだ。

 でも、店をたたんでから10年ぐらいは経っているだろう。

 少し離れてから姿形を拝見したが、まず間違いなくあの奥さんだった。とりあえずお元気そうでひとまずはほっとした。
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 さして長くはない年月の間に、かなり多くの店じまいを見てきた。

 ときどき顔を見せる程度でも、特にその店が家族経営だったりすると、その後いったいどうなさるのだろうと、人ごとながら気になるのが常だ。
 もちろん、ほとんどの場合、消息などは知りようもない。

 もしかしたら、今回はその後の消息がわかった初めての例かもしれない。なじみのスーパーにいらしたというだけで、どこにどういう形で雇われてあそこに立っていらっしゃるのかすらわからないのだが。
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 ともあれ、みんなそこそこ健康でそこそこ幸せであってほしいと思う。みんな、なんてありえないのは知りつつも。