◆残酷な女王様

 女王蟻をアントクアリウムで飼うという、まったく同じことをなさった先達がいることをネットで見つけた。

 それによると、卵を産み、それは幼虫にはなるものの、結局それ以上は成長せず、また、女王一匹で巣を掘ることもないので、試みは失敗に終わったということらしい。

 自分の場合は違うかもと淡い期待がないわけではないが、同じ轍を踏むのもおもしろくない。

 ここは早々に見切りをつけて、働きアリを投入し、巣作りをさせようと試みた。同じ自宅の玄関前で捕らえたアリならちゃんと女王に仕え、巣作りに励むかもと期待したのだ。

 幸い、玄関先に巣を作っている大きな黒いアリがわんさかいるので、捕獲は容易なはずだ。

 だが、息子と2人で苦労して(入れようと蓋を開けると、すでに入れたアリが逃げるのだ)4匹ほど入れてみたものの、どうも、女王と働きアリは仲良くできないようである。
 接触すると、格闘を始めるのだ。

 当初、とにかく激しく歩き回っているし、環境を変えられてパニック状態に陥っているだけだから、そのうち落ち着くだろうと思っていた。

 息子の方がむしろ冷静に、「この女王アリはクロオオアリやけど、働きアリの方はクロヤマアリちゃうん? 大きさがぜんぜんちがうやん」とか言っていた。
 たしかに大きさは違うのだが、なに、同じ場所で捕まえたのだ。女王アリはこれぐらいでかいのだ、とか思っていた。

 ところが、「これ、どうみても7mmもないで。いや、あるかな?」と言い始めた。何でも、クロオオアリなら、働きアリでも7mmぐらいはあるはずなのだそうである。

 まあしかし、とにかくしばらく様子を見ようということになって、のんびり夕食を食べ終わると、そこにはなんと、かわいそうなクロヤマアリ?のバラバラ死体が横たわっていたのであった。

 女王アリを連続殺蟻鬼にするのも、被害蟻も可哀想なので、「様子を見よう」という当初の目論見は小一時間を待たずにあえなく潰え、苦労して捕まえた残りのアリを逃がすことにした。

 息子は、アントクアリウムの方には働きアリを残し、女王の方を別容器に入れたいと主張したのだが、大枚3000円近く出してこんなものを買ったのは、女王アリを捕まえたからこそなのだ。
 家人の応援も得て、結局、女王アリを残すことにした。

 だが、おそらく、女王アリ一匹では巣は作らないし、卵だってまだ産まれていない。

 「巣、作れへんねやったら、これに入れといてもしょうがないやん」


 息子よ、その通りなのだ。

 だが学べ。人は時として理屈に合わない願望を遂行したくて、それを制御できないことがあるのだ。

 それがカタストロフへと進まぬならば、心の赴くままに行動した方が後悔は少ない。