■まずい蕎麦

 先日、まずい蕎麦を食べた。

 いや、何もグルメを気取るつもりはない。取り立てておいしくもないごく普通の蕎麦でも、文句なんか言わない。
 職場の食堂の蕎麦は冷凍のをお湯で戻すだけだが、特に不平も言わずしばしば食べている。

 だが、こないだ食べたのは、「えっ、これ何 !?」というぐらいひどかった。大袈裟に言えば、ここ20年ぐらい食べたことのないまずさだったのだ。

 これを客に出してお金を取るのか、というレベルである。

 食べたのは駅そば。それでも、立ち食いのスペースはなく、むしろ4人がけでゆっくり座れそうなテーブルが2つあった。あとはカウンター。

 出汁は化学調味料なのかもしれないが、特に悪くはない。ニシンだってまああんなものだ。だが、麺のひどさといったら、ちょっといくら何でも、という感じだった。

 麺だけ、あと10円高いのを使ったら、たぶん見違えるようなまともな蕎麦になると思う。その10円はそっくり販売価格に転嫁すればよい。10円が30円でも同じことだ。250円が260円とか280円とかになるだけである(にしんそばは500円越えになるけど)。

 どうしてあそこまでまずい蕎麦を使って、10円20円の値上げを嫌うのかがわからない。

 働いている人たちに罪がないのはわかるけど、前の客が「ごちそうさま」と言って出ていくのに違和感を禁じ得なかった。

 でも結局、私もそう言って出ていくことになった。習慣化されているのである。
 そのわたしの「ごちそうさま」は、それなりの声で言ったのに、従業員の誰にも気づかれることなく、店の湯気の中に消えていった。

 侘びしさもひとしおだ。

 今度はうどんを食べてみようか。まさか蕎麦ほどひどくはあるまい。