■願:禁煙・禁臭

 銀行に行かねばならぬ用事を済ませ、手早く昼食を片付ける必要があったので、チェーンのラーメン屋に入った。

 入るなり、タバコの煙の襲来を受ける。「ランチタイムは全席禁煙」と、大きく掲示してある店だ。

 「いらっしゃいませ。お一人様ですか? カウンターのお席へどうぞ」とたたみかけてくる店員を無視して(いや、無視しなくても、何らかの挨拶をして)思い直したようにすぐ店を後にする勇気もなく、カウンターの席に着く。

 タバコを吸っている男は、おそらくは単に禁煙だということを知らなかっただけかもしれない。何といってもラーメン屋だし、その可能性は高いと思う。
 問題なのは、禁煙なのに目の前に灰皿が置いてある店の姿勢と、見て見ぬふりをする店員だ。

 タバコの臭いは不快だったが、どうやら食後の一服だったらしく、幸い、注文の品が来るころには男はいなくなり、臭いもそれほど気にならなくなった。できるだけ遠くに座ったのも功を奏したのだろう。
 それでも、後で気づくと、自分の手やセーターからタバコの臭いがしたのには驚いた。ほんとに困ったもんである。

 注文したラーメンを半分ほど食べたころ、隣に男が座った。

 臭い。

 体臭ではない。明らかに香水とかそういう類の臭いだ。30代前半とおぼしきスーツ姿の男である。左手の薬指に指輪をしている。まだ若いので、おじさん特有の整髪料の臭いとかではない。おそらく本人はオシャレのつもりで身に纏っている「香り」なのだろう。

 それが臭い。食欲も減退する。

 これが体臭ならまだ我慢できるのだ。昨日昼食を食べたパスタ屋のウェイターからは体臭がした。無香性のパウダースプレーでも使ってほしいと思わないわけではないが、いかんせん、努力でどうこうできない場合もあろう。仕方のないことには寛容でありたい。

 だが、食事している他人を不快にさせるような臭いをあえて身につけるのはぜひやめてほしいと思う。
 まあ、本人にそうしているつもりはないんだろうけれど、「その香水?臭いですよ」とは言えない(絶対に言えない)のも辛いところだ。

 小太りのその男は、ラーメンの大盛りと山盛りライスのセットを注文していた。ダイエットしろとまでは思わないけれど、どうしてあえてそんなに食べ、さらに太って不健康になる努力をしているのかは疑問である。
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 女性の香水を不快に思うことがそれほど多くないのはなぜだろう。明らかにつけすぎている場合を除き、臭いと思ったことはほとんどない。思い出せるのは、映画館だか劇場だかでのポワゾンの臭いだけだ。頭が痛くなった。あれもつけすぎなのかな。

 それ以外はむしろ、いい香りだと思うことが多い。やはり男にそう思わせるための匂いだからだろうか。

 今日の男がつけていた香水?も、女性が嗅げばもしかするといい匂いだったりするのだろうか。明らかにラーメンがまずくなったんだけど・・・
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 時間にも追われ、臭いにも悩まされる不本意な昼食になってしまった。お金を払って不快な思いをさせられるようでは意味がない。

 やはり食事は混雑時を避け、空いたレストランでゆっくりとりたい。できる限り。