●茶房「読書の森」

 信州は小諸、千曲川を挟んで街の中心市街地と相対する御牧ヶ原台地の上に、茶房「読書の森」がある。

 ジョン・レノンに似たマスターが無口なはにかみを交えて不器用に話す。
 奥さんは文字通り奥の工房で機を織っていらっしゃることもあるのだろうが、その姿を見たことはない。いつもカウンターに出て、明るく大きな声で接客をこなしている。

 小諸出身で京都の大学を出たご主人は、浅間連山を見はるかすこの地に居を構えたいとの夢を持ち、叶えてしまった人だ。

 わけあって、昔、しばしばお邪魔していたのだが、今回、久しぶりに訪れることができた。

 行くたびに何かしら発見があったり驚かされたりするのだが、今回は格別だった。奥さんに無沙汰を詫びるなり、「ユウさんは今、ストロベリーハウスを作ってるんですよ」との言葉。ユウさんとは、もちろんマスターのことである。
 「ストロベリーハウス??」となっている私に、「ほら、あの、アメリカの」と説明してくれるが、何のことかわからない。後で拝見することにした。

 おいしいカフェオレをいただき、外に出てみると、映画でよく見るネイティブ・アメリカンのテントというか、わら?でできた簡易円錐住居のようなものがある。中は3人座れば満員、1人が横になることもできない狭さだ。
 ストロベリーハウスってこれのことか?

 驚いたことに、ロバがうろうろしている。その横には、どう見てもモンゴルのゲルにしか見えないテント。こちらは数人が中で寝られそうだが、まさかこれではあるまい。

 納得できないまま母屋の裏手に回ると、壁を泥で固めた小屋があった。ああ、これがストロベリーハウスなのか・・・(実は、ストローベイルハウス(Straw Bale House)です。藁俵を積んで泥で塗り固め、漆喰で仕上げる家のようです)

 その時はそれでもまだわからなかったのだが、今こうして思い返してみると、昔、アメリカのサンタフェでよく見かけた、プエブロインディアンの住居なんかに似ている(でもアレは日干しレンガだ。調べてみると、ストローベイルハウスはネイティブ・アメリカンとは関係のない、むしろ開拓者の牧場主たちが作った家のようである)。

 しばらく来ないうちに、ロバやらゲルやらストローベイルハウスやら・・・

 相変わらず、近在・遠在の文人や画家・音楽家などのサロンにもなっているようだ。

 くっきりと見える浅間の頂上にはわずかに雪。

 時間がゆっくりと流れる、こんなところでこんな暮らしを・・・と、苦労も知らずに憧れてみても、見果てぬ夢物語である。