◆手作りクッキー

 年下の女友達から、手作りだというクッキーをもらった。

 「ああ、ありがとう」と気楽に受け取ってから、内心、「あれっ!?」という思いにとらわれた。

 もしかして手作りのお菓子なんか女の子からもらったのって初めてじゃないかな? 少なくとも、ここ20年近くはないような気がする(もし忘れてたらごめん、って誰に謝ってるんだか)。

 思ったことはすぐに口に出してしまうタイプなので、その旨言うと、「ええっ!? あるでしょ。バレンタインとか何とか」・・・

 バレンタインに手作りのお菓子をもらうような華麗な人生を送っていれば、また違った人間に成長していたのではないかと思う。

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 だがもちろん、今回のはバレンタインがどうのこうのというようなクッキーではない。「息子さんにでもあげてください」という言葉がすべてを物語っている。

 彼女の場合、やるべきことが重荷になると、その逃避としてお菓子作りに励むのだそうだ。「クッキーばかり焼いてます」って、おいおい・・・

 私の場合、最近は家事に逃げている。特に、洗濯物をたたんだり掃除をしたりしていると、けっこううまく逃げ込めるような気がする。
 お菓子はババロアしか作らないが、それはえいやっと思い切らなければ作れない。作り始めると簡単にすぐできるしおいしいのだが、逃げ込む先にはなっていない。

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 家人はお菓子を焼くとか編み物をするとかとは100%無縁の女だ。だからお菓子に関しては、私の方がまだ作ることがあるだけ上だということになる(さすがに編み物は私もしない)。

 若いころは(というか、今でも心の底では?)、私の着るものを何でも編んでくれたり、身の回りの小物を手作りするような女性が理想だったのだが、人生ままならぬものである。