◆自転車で昼食ジプシー

 やっと自転車に乗れる気温になってきたということで、遠い方の職場から自転車に乗って昼食に出かけた。

 少し走ったところに、cozy なイタリア料理屋があるというので、開拓しようという目論見もあった。

 職場を出て懐かしい坂道(昔、悪友のアパートに行くのによく通った)を下って大通りに出た。その後、踏切を渡ったら、未知の領域である。

 1/10000の地図をコピーして持っていたのだが、古いせいもあって道がおかしい(帰りにわかった)。まあでも、だいたいの見当をつけて進んでいく。

 こんなところに、というような、自転車でも通るのがやっと、歩行者ともすれ違えないほどのありえない路地(でも地域の交通に貢献しているようだ)を抜け、しこしこと進んでいくと、これまた、歩行者しか通れないような橋がかかった川に出る。

 橋の上から下を見ると、例によってアオサギがじっと立っていた。

 今どき、こんなところにこんな風景があるなんて、と思いながら、要所要所で地図を取り出し、立ち止まりながら進んでいく。幸い、大きく迷わずにはすんだ。

 途中、そこここの学校で運動会などをやっている。

 やっとたどり着いたイタリア料理屋は、どう見ても休み。そんなはずは・・・一応調べてきたのに、と思うが、思っても詮のないことである(後で、火曜日は第一だけ休みだということを知った)。

 近くにまだ行ったことのない老舗のうどん屋があったことを思いだし、気を取り直して行ってみると定休日。
 そして、2〜3度行ったことのある小粋な洋食屋の前をたまたま通りかかると、既に店はなく、外装を取り外したうらぶれた壁の横に、「テナント募集」の看板が空しく立っていた・・・

 やれやれ、いつもの昼食ジプシーが始まってしまった。どこで何を食べられるやら・・・

 結局、以前夕食にちょくちょく通っていた洋食屋のランチで、太刀魚のフライを食べることになった。
 かれこれ20年以上前から知っているマスターは、もはや私の顔を覚えていないのか、以前の「まいど」がない。いつも家族と来ていて、1人で来るのはたぶんまだ2回目だからかもしれない。仮に覚えていても、「まいど」というほど来てないからかな。
 こちらから「ご無沙汰してます」というのも、今日は遠慮した。

 食べ終わった後、まったく手元を見ないでどんどんジャガイモを剝き、8つに切っていくマスターにびっくりする。別の客と話をしているのだ。
 まず両端を落とし、皮をむき、縦に十字に切って4つにし、最後に真ん中で2つに切って8つにする。
 この一連の動作を、目をつぶっていてもできるということである。ありえないようなスピードで動く庖丁の勢いが恐い。

 ざっと計算してみると、マスターが今剝いているジャガイモは、彼が剝く50万個目のジャガイモかもしれないということに気づく。何十万個も剝いていれば、確かに、もはや手は機械のように自動的に動くのかもしれない。
 真面目に毎日こつこつと働いている料理人の凄さを思う。

 帰りは実にスムーズに進んだ。行きの橋の一つ上流にある橋を渡る。本来なら行きの時にも渡るはずだった橋だ。
 橋の途中で立ち止まると、今度はコサギが上流から飛んできて橋の下をくぐり、例の歩行者専用橋との間の川に降りる。

 思いもかけず長い昼食になったが、道を選べばほとんど車と出会わずに走れることが改めてわかったのは収穫だった。

 今日は仕事の方も朝から夕方までよく働いた。

 夜は家族で外食、買い物。息子の視力が3段階も落ちていてショックを受ける。

 帰ってから洗濯物をたたみ、また靴下を繕い(やはり息子は「つぎをあてる」というのが何のことかまったく知らなかった)、食器を洗う。

 充実した一日ではあった。ほとんど何も生産していないんだけれど。