◆久々にトキの話題

 トキについては、鳥に興味がない人でもよくご存じだと思います。特に、ある年齢層以上の方々は。

 私たちが子どものころには、国語やら道徳やらの教科書に派手に取り上げられたりもしていました。今でも忘れられないのは、さだまさしの次の歌(1982年)です。

 ♪トキが7羽に減ってしまったと新聞の片隅に
 ♪写りのよくない写真を添えた記事がある
 ♪ニッポニアニッポンという名の美しい鳥が多分
 ♪ぼくらの生きてるうちにこの世から姿を消してゆく...

 そして、今、トキが日本に何羽いるかご存じですか?

 実は、100羽以上いるのです。

 1980年ごろまでは、トキは日本にしか棲息していないかのような誤解がありました。中国と国交がなかったり、国交回復後も情報が乏しかったりしたためでしょう。
 それでも、いよいよ日本産のトキが「絶滅」するころには、中国にそれなりの生息数が確認されていたので、最後まで残ったキン(トキの名前)が死んだとき(2003年)以外、あまり大きなニュースにはならなくなっていました。

 学名(ニッポニアニッポン)のこともあり、なんだか日本を象徴するかのような鳥だとされていましたが、もともとは極東ロシア・中国東部・朝鮮半島・日本などの広く東アジア一帯にごくありふれた鳥だったそうです。ただ、その後、1960年代を最後にロシアや朝鮮半島では観察されなくなっていました。

 キンが死んだときには、やたらに「日本産の」最後のトキであることが強調され、それが「絶滅」したという表現が使われていました。
 マスコミ的に言えば、いっそのことほんとにこの地球上から絶滅してくれた方がニュース価値があってよかったのかもしれません。

 ですが、トキに日本産も中国産もありません。DNAレベルで調べても、まったく同じ種だそうです。あんまりヘンにナショナリズムを煽るような報道はどうかと思いますが、逆に、そういう衣装をまとっていないトキに関心を持つ人はそう多くなく、現在日本にトキが100羽以上もいることは、おそらくほとんど知られていないと思います。

 日常のあれやこれやに紛れてしまって、トキが絶滅へ向かっていること、ひいては自然が破壊されていることへの無関心に警鐘を鳴らした さだまさしの歌の時代(25年前!)と、本質的には何も変わっていないような気がします。トキの数がどれだけ回復していようと。

 そんなトキのニュースを、久々に朝日新聞の1面で見ました。夕刊だし、トップ記事でもありませんが。

 それによると、いよいよ「野生復帰訓練へ」だそうです。一応は、「絶滅」とはえらい違いです。ここにいたって、ほとんどコウノトリレベルになり下がって?しまいました。コウノトリは既に野生に復帰しつつあり、今年からヒナも孵っている(野生では何と43年ぶり)ことは報道などでご承知かと思います。

 トキの自然界への放鳥は、来年(2008年)になるそうです。まだまだ安心できないとはいえ、一時は絶滅が確定したかのように歌われたトキが、ここまで回復したのは素直に喜ぶべきことでしょう。

 しかしながら、現在の日本はまだまだコウノトリやトキが自然に暮らせる環境ではありません。
 中国のトキ棲息地にしても、ごく狭い限られた範囲ですし、中国自体、ものすごい経済発展を続けていて、それは、このままではますますトキが住みにくくなっていくことを意味します。幸い、棲息地自体は保護されてはいるようですが・・・

 わたしには、コウノトリやトキが暮らしにくくて、人間にとっては住みやすい環境というものが想像できません。
 日本も中国も、そして他の国々も、鳥にとっても人間にとっても住みやすい環境を目指して努力していかなければならないと、珍しく真剣に考えてしまいます。