★久しぶりの釣り

 海沿いの地方都市?で育ったので、子どものころはときどき釣りに行った。だが、それもピークは小学校のころで、中学になって以降、釣りに行った記憶はほとんどない。
 オトナになってからは、最初の勤務先で2〜3回行ったきりだ。あ、去年だかに、ひょんなことから船釣りのお供を1度だけしたが、すぐ酔ってしまって釣りにならなかった。

 というわけで、釣り糸を垂れて、来ない魚信を待つ経験は、十数年ぶりだ。修学旅行で釣りをして、ほとんど誰も釣れなかったのに、一番最初に魚を釣り上げた(といってもクサフグ)という息子が、どうしても行きたいとせがむので、仕方なくでかけた。

 とんでもなく寒いだろうというのはわかっていたので、6枚も着重ねた。本当なら明け方には釣りを始めていなければならないのだが、実際には9時半。寒さと眠気には勝てない。

 予想通り、まったく釣れない。アタリすら一度もない。

 諦めて帰ろうかと思ったころ、息子がやけに重そうにリールを巻き始めた。情けない奴だ、もっと速く巻けよ、とか思っていると、海面に何やら黒い藻のようなものが見えた。アタリはあったのかと聞くと、なかったという。海草でもひっかけたのかと思っていたらなんとタコだった。

 子どもは大喜び。私も何だかうれしくなってきた。たかが小さなタコ一匹、釣れるか釣れないかで幸福度が断然違う。まったくのボウズだとしたら、何のために寒い冬の日、こんな所まで来てじっと竿を握っていなければならないのか。

 後で思い当たったのだが、実はタコなら何度か釣れていたのだ。アタリがなかったので釣れているとは思っていなかったが、重いリールをぐんぐん巻いていると、急に軽くなることが何度かあった。あれは、釣針に引っかかったタコが、引っ張られる勢いに負けて外れたに違いない。息子がのたのたと巻いたのが幸いして、釣り上げることができたのだ。

 思えば、すぐ近くでエサなしのタコ釣り(タコ引っ掛け)の仕掛けを使ったおじさんがタコを一匹釣った時点で気づくべきだった。うーむ、無念・・・

 あそこには、海底をズリズリと鉤針で引きずれば時折引っかかるほど、タコがゴロゴロしているに違いない。あれだけの状況が揃っていながらそれに思い至らないなんて。
 経験不足では思考力が働かないことを思い知った(大げさだな)。

 機会があれば、正月にでもタコ釣りに出かけようと思う。キスやカレイを狙うからいけないのだ。タコ釣りなら、あの気持ち悪いエサを釣針に通す苦労もない。寒いのだけが気にかかるが。