●鰯の頭も・・・

 私はあらゆる宗教を信じていない。
 いやまあ、人並み以下くらいには神社仏閣を訪れるし、一応は柏手を打ったり手を合わせたりもする。よくある日本人の一人と言ったところか。

 あらゆる超常現象も信じない。
 もちろん、現在の科学で説明できないものがすべて超常現象だというつもりはない。現在は超常現象だと思われているものごとでも、現実に存在していて将来的には超常現象でなくなることもあるだろう。
 それでも、幽霊だとかお化けだとか天国だとか地獄だとかは信じない。その存在をあんまりバカにして祟られたりするのは困るけれど ^^;

 UFOも信じない。
 というより、地球外生命体の乗る宇宙船を信じない。文字通りのUFO(Unidentified Flying Object)なら実際に目撃したことがある。複数で見たので、飛行機やヘリコプターではなく、UFOであることは間違いない。あれは何だったんだろう?
 地球外生命体については、むしろその存在を100%近く確信している。その存在が地球まで飛んでくる科学技術力と、わざわざ地球を目指してくる必然性が信じられないだけだ。

 結局のところ、何かを信じているとすれば科学である。
 現在の科学を盲信しているわけではない。将来的に(どのくらいの将来?)この世の事象のすべてが科学で解明されるとも思わない。それでも、あらゆることを説明するのに科学以上のものは存在しないことは確信している。

 いわば、科学教の信者なのだ。

 しかし、だからこそ、擬似科学似非科学は好きではない。
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 例によって前置きが長くなった。

 先日、三重県の関宿に出かけた折り、面白い石屋さんがあった。墓石屋さんや庭石屋さんではなく、実用性のないいろんなガラスやら化石やら岩石なんかを売っている店だ。アンモナイトや水晶やアメジストなんかを中心に、とえいば、わかりやすいかと思う。

 木工品や金属の小物、岩石なんかが人並みよりはちょっと好きなので、街道の行き帰りに計2度立ち寄った。
 2度目に入ったとき、店のオーナーだという若者(にしか見えない)といろいろ話すことができた。

 店の来歴やアメジストと水晶を中心に遠慮なく教えてもらっているうち、気になる石?を見つけた。

 単にモノとしてちょっと気に入っただけなのだが、その時に初めて知って教えてもらい、後で調べたところによると、その筋ではけっこう有名な「テラヘルツ鉱石」というものだった。
 結論を言うと、擬似ないし似非科学を利用した詐欺的商法によく使われている商品である。

 だが、それまでの話でオーナーが正直なのはある程度わかっていたので、話を聞いてみた。

 一番有名なのは、テラヘルツ鉱石の上では氷がどんどん融(と)けるという現象で、そのせいであたかも何か大きな効用があるかのようにうたうのが通例だ。実は残念なことに、その石屋さんも例外ではないのだが、「パワーストーン」なんかを扱う店として、ぎりぎり踏み外していない感じであった。
 正体不明の「テラヘルツ鉱石」として売るのではなく、純度の高いケイ素だと(当たり前だが)正直に話し、「氷が溶けるのって要するに比熱が低いからですよね」という私の問いに、「というか、熱伝導率が非常に高いからです」と明快である。
 ちなみに、「テラヘルツ鉱石」が発するという「テラヘルツ波」とは、何のことはない、要するに赤外線だ(ただ、3テラヘルツ以下のものは電波と定義されている。また、およそ400〜800テラヘルツはただの可視光線だ)。

 それでも、「科学的理由はわかりませんが、うちの母親が肩の痛みがあったときに使うと、実際に痛みが取れました。血行が良くなるんでしょうか」とか、「生け花の水に入れておけば花が長もちしました」などという。
 「そういうのはまあ、ある程度実験的事実として確かめられるので、もし本当なら可能性はありますね」という私が、そういう「効能」は抜きにして、モノとしてのそれを気に入っていることにつけ込まれ、「気に入っていらっしゃるなら、まあ、だまされたと思って」と買わせるあたりはさすが代々の商売人である。

 最後に背中を押されたのは、買うことに決めていた水晶のツボ押しと両方買えばいくらか値引きしてくれるということであった。
 われながら情けない。
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 さて、五十肩の影響で、これまで経験したことのない局所的な凝り、錐で刺したような痛み(ただし痛さ自体はそれほどではない)が出ることあった。鍼なんかに通っても、その時は軽快したような気もするが、またぶりかえす。
 その時もその凝りがあったので、それこそ「だまされたと思って」購入し、家に帰るまで肩に載せておいた。ケイ素(シリコン)の固まりだが金属質で、ちょっと肌に貼り付く感じがあり、固定していなくても落ちたりしない。

 それで、凝りが取れたのだ。

 載せていた右肩の凝りが取れて、逆に左の凝りが気になり出すくらいになった。
 まさかの「効能」である。

 想像するしかないのだが、短時間で体温と同じ温度になったシリコンの固まりが、肩からの放熱を抑えていただけのことではないかと思う。汗だって蒸発できない。
 その結果、「血行が良くなった」ということなのだろうか。

 だとすると、もっと熱伝導率のよい物質を肩に置いておけば、もっと「効く」はずである。
 そうしてたどり着いたのが銀であった。鍋の材料としては銅が有名だが、銀の方がやや勝る。ケイ素(シリコン)と比べると銀は2.5倍も高い。

 幸い、銀の価格は金のおよそ1/100である。金やプラチナ(やシリコン)と違って錆びるのが欠点だが、まさか金やプラチナの塊を肩の上に置いておくことはできない(し、同じ大きさのものを買うのに莫大な金額を必要とする。それに、金はともかくプラチナの熱伝導率はかなり低い)。

 というわけで、今日は銀を手に入れた。
 やはりというか当たり前だが、氷を置くとみるみる融ける。確かに、ふだん見慣れない現象で、不思議な感じはする。例の痛みはシリコンのお蔭で?なくなっているので実験することはできないが、これで片方ずつではなく両肩に載せておくことができる。

 そんなものが本当に効くのかどうかはわからない。でも、鰯の頭も信心からと言うし、科学的にはプラセボ効果だって認められているのだ ^^;