◆グラン・トリノ

 ちょうど高齢者の差別意識について考えさせられるようなことがあった日の夜に見た。
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 私の父も祖父たちも、戦争には行っていない。だがそれは、たとえば太平洋戦争に関していえば、父は幼すぎ、祖父たちは年を取りすぎていたという偶然によるところが大きい。

 日本がもし、朝鮮戦争を戦っていれば、父も徴兵されていた可能性が高い。その場合、父が主人公と同じようなトラウマを抱えたまま年を取っていくことになったか、私が生まれることはなかったかのどちらかとなったことだろう。

 『グラン・トリノ』では、歴史の流れや時代の流れに翻弄された者同士が、はからずも隣同士に住むことになる。そして、少なくとも一方には、隣人への激しい差別と蔑視の心が存在する。

 何の予備知識もなしに見ても、主人公の頑なな心がほぐれていくという物語の先は見える。題名であるビンテージカー、グラン・トリノの行方もわかる。
 それでも、見る者を一時も飽きさせず、人間の心情やそれを踏みにじる現実を自然な流れの中で描いていく力量には脱帽させられる。

 もちろん映画は多数の人々による合作だが、製作者であり監督であり主人公でもあるクリント・イーストウッドには畏れ入らざるをえない。

(Gran Torino, 2008 U.S.A.)