◆ホタルにストロボ

 全国で唯一、特別天然記念物に指定されているという源氏ボタルの生息地を訪れた。時期や天候のこともあったし、それほど期待していなかったのだが、件の山東町内で唯一、現在「乱舞」と書いてある場所に出かけた。20〜30匹も見られれば納得しようと思っていた。

 信じられない。30年前に見た光景が眼前に広がっている。いや、それよりすごいかもしれない。何しろ源氏ボタルだ。視力がもう少しよければと思うが、光がぼけているのも幻想的でいい。ものすごい数である。さすがに、町を挙げてホタルの繁殖に尽力しているというだけのことはある。人が多すぎるのが欠点だが、それでも田舎のこと、その時点でのその場所の人出はせいぜい200〜300人だろう。

 だが、やたらとストロボの閃光が光るのには閉口した。写真を撮ろうとしているケイタイの液晶画面すらまぶしくて、邪魔で仕方がない。だいたい、そこいらのケイタイやデジカメでホタルがまともに撮せると思っているのだろうか。そもそもストロボは届かない。もし届いたとすれば、今度はホタルの光が写らない。バルブシャッターが切れるカメラで補助光なしにしなければ、ホタルなんて撮れるもんではない(たぶん常識だ)。だれかがそうやって写そうとしていても、途中でストロボをたかれたのではぶちこわしである。
 ためしに2秒間露光してみた。私のデジカメではそれが最大シャッター速度のようだ。もちろん、ストロボはなしで、液晶画面を手で覆って光を遮り他人の邪魔にならないようにした。写っていたのはほとんど真っ暗の画面で、画像処理ソフトで蛍の光がやっと確認できる程度であった。
 ストロボをたいた人はどうなっているか。よくて土手が写っているだけ、悪ければ真っ暗だろう。ケイタイのストロボなど、数メートル先までも届かない。いずれにせよ、ホタルの光は写らない。

 いや、要するに、まったく役立たずのストロボなのに、ホタル観賞の邪魔をするには最高のアイテムなのである。

 何人かが、ときおり、「まぶしいやないか」とか「ストロボを使うな」とか怒鳴っていたが、減る気配がない。ストロボを使うと写らないことを教えてあげても結果は同じだっただろう。家族に教えるフリをして、周りに聞こえるように私も注意を促していたのだが・・・

 それにしても、ホタルを見に行ってストロボに邪魔されたのは初めてだ。以前はカメラなんか持っていなかった人がケイタイを含めたデジカメを持つようになったのが原因だろうか。まったく、もう。